メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

教育の窓

部活指導員、根性論脱却を 内田良・名大大学院准教授に聞く

内田良・名大大学院准教授

 <kyoiku no mado>

     スポーツなどに詳しい学校外の指導者が、学校職員と位置付けられる「部活動指導員」制度が4月に始まった。教員の負担軽減と部活動の安定運営などのため、中学・高校の部活動で技術的な指導をするほか、大会へ引率したり、顧問に就いたりできる。部活動の現場はどう変わるのか。学校問題に詳しい名古屋大学大学院の内田良・准教授に、子どもの立場からみた意義や課題を聞いた。

     ●子ども、負担減らず

     --今回の制度をどう評価しますか。

     国の部活動指導員制度の導入には大きく二つの狙いがあります。一つは教員の長時間労働の解消です。

     ある教育誌に掲載された研究で、名古屋市の中学校新任教員の残業時間が、月平均90時間だったというデータがあります。国の「過労死ライン」の80時間を超えている。別に名古屋市が特異なわけではなく、どこも同じような状況でしょう。先生に代わって負担を減らそうとする点で、指導員制度を高く評価します。

     一方で、子どもの負担軽減にはなっていません。休日もない、長時間の部活動は子どもたちにとっても大きな負荷がかかります。でも、国が掲げる指導員制度の二つ目の狙いは、子どもの技術力の向上です。むしろ「部活動を積極的にやるぞ」という姿勢を示しています。指導員は地域の熱いタイプの人が引き受けがちで、根性論で練習が過酷になることを危惧しています。

     --子どもにとって指導員のメリットはないのでしょうか。

     指導員の資質によってはあります。より高度な技術指導を受けられる点です。日本体育協会(東京都)の調査では、運動部担当の教員の約半数は、その競技の未経験者でした。運動部で素人が指導するのはとても危険なことです。事故につながるからです。

     ただ注意しなければならないのは、ただの経験者では駄目だということです。経験則はかえって危険を招きます。必要なのはスポーツ指導の科学的知識なのです。しかも、時代に応じてきちんとバージョンアップされること。例えば、中途半端な知識の指導者は、長時間やれば強くなると考えます。しかし、プロは、本当に勝ちたいと思うなら週2日休むのは当然と考えます。

     ●定期チェック必要

     --指導員の質を担保するにはどうしたらいいでしょうか。

     指導員と指導内容をきちんと調査し、チェックすることです。どんな競技経験があり、大学などで何を学んだか、指導方法は適切か、などの点について年1回、あるいは2年に1回でも定期的にチェックします。国が人件費を出すのが一番いいと思います。そうでないと自治体任せになってしまい、地域によってばらつきが出るからです。国が指導員の資質の点検までするのは難しいので、予算を手当てするしかありません。

     --教員、子どもの双方に無理を強いる「ブラック部活」という言葉も広がっています。

     部活動は1980年代ぐらいから変容してきました。ペーパーテストだけではなく、生徒の多様な能力を評価する尺度の一つとして入試の成績に結びつきました。学校によっては看板にもなり、強豪校の校舎には「全国大会優勝」などの垂れ幕がかかる光景を目にします。

     部活動が生徒や学校の評価手段となり、勝利至上主義に傾く中でブラック化が進んできました。本当は「勝つため」一心になっているのに、先生たちは「子どものため。ごらん、目がキラキラしている」と。教育の名がつくと、みんないいことになってしまう。

     ●長時間活動に疑問

     --部活動は今後、どうあるべきだと考えますか。

     部活動は、誰もが同等に低コストでスポーツや文化活動に触れられる、子どもに対する機会保証だと考えています。世界でも類を見ない制度で、残すべきだと思います。でも、学業に支障が出るような長時間の活動は必要ないし、教員の不払い労働が支えているのもおかしい。

     教育現場や家庭が、部活動のあり方について根本的に考えを変えていかなければならないと思います。休養日を増やすだけでなく、大会数を減らすなど、評価や勝つことを前提とした考え方から脱却を図る必要があります。

    「休養指針」実効性カギ

     部活動指導員が学校教育法に盛り込まれ、学校職員として位置付けられるようになった背景には、国際的に日本の学校教員の長時間労働が問題視されたことに加え、教員自らも声を上げて署名集めなどの活動を始めた経緯がある。

     日本は2013年に経済協力開発機構(OECD)が行った「国際教員指導環境調査」(TALIS、タリス)に初参加した。14年6月に結果が発表され、日本の中学校教諭の1週間あたりの勤務時間は53・9時間と参加34カ国・地域のうち最長で、中でも部活動など課外活動の指導時間は7・7時間と、参加国平均(2・1時間)の3倍超だった。世界一多忙な状況がデータで示され、教育関係者の間では、調査名をとって「タリスショック」と呼ばれたほどだ。

     また、現場の過重労働の実態が明るみに出たのは、ウェブサイト「部活問題対策プロジェクト」の力も大きい。全国の現役中学校教員6人が15年12月、部活動の顧問を引き受けるかどうかの「選択権」を求めてネット上で署名集めを始めた。サイトには疲弊しきった若手教員たちの声がつづられ、3カ月間で約2万3500人の署名が集まり、文部科学省に提出された。現在も活動は続き、署名は3万1000人を超えている。

     今年1月、文科省とスポーツ庁は、中学や高校の部活動の休養日を適切に設けるよう全国の教育委員会などに通知した。さらに、今年度中に実態調査を実施し、具体的な練習時間や休養日のガイドラインを策定する方針だ。

     しかし、1997年に当時の文部省が部活動の休養日について「中学校は週2日以上」「高校は週1日以上」と目安を示した際には、現場にほとんど浸透しなかった。専門家からは「罰則規定がなければ、どの程度実効性があるのかわからない」という指摘も出ている。【太田敦子】


     ■人物略歴

    うちだ・りょう

     1976年生まれ。名古屋大経済学部卒、名大大学院教育発達科学研究科博士課程修了。教育社会学者。授業中や部活での体罰、事故など「学校リスク」に関わる問題について研究し、2011年から現職。著書に「柔道事故」「教育という病」など。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 覚醒剤 使用容疑で元うたのお兄さんを逮捕
    2. 自民党総裁選 小泉進次郎氏、石破氏を支持
    3. 安室さんコンサート 療育手帳提示で入場できず 返金へ
    4. 自民党総裁選 安倍首相が連続3選 石破元幹事長破る
    5. 小泉進次郎・自民筆頭副幹事長 「モリカケやっぱりおかしい」 特別委設置求める

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです