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米国・テキサスを拠点に活動を続ける新進ピアニスト、岩井のぞみのリサイタルが5月26日午後7時から、東京の浜離宮朝日ホールで開かれる。全盲のハンディキャップを感じさせない端正で透明感のある音楽作りは国内外の国際コンクールでも高く評価され、昨年ドイツで開催されたシューベルト国際ピアノコンクールでは審査委員特別賞を受賞。世界各地に演奏の場を広げる「成長株」の演奏に注目したい。
岩井は4歳からピアノを始め、桐朋学園大付属子供のための音楽教室、桐朋女子高校音楽科を経て桐朋学園大音楽学部を卒業後、研究科に在籍し渡米。テキサスのクリスチャン大学大学院で研さんを積み、今秋からは英国で勉強を続ける予定。
4歳の時、幼稚園で遊んでいるときに積み木が目に入り右目の視力を失った。元々弱視で視野が狭い状態で酷使していた左目も、アメリカ留学が決まった直後に視力を失った。
桐朋学園大を卒業するまでは、かすかに見える左目の前に拡大コピーした楽譜を近づけて、曲を覚えてから弾くという勉強の方法だった。全盲になってからは、曲を覚えるのは耳を通してのみ、点字楽譜は使わない。「友人や周りのピアニストに右手と左手を別々に録音してもらって音を覚えます。その後で、楽譜に書かれている強弱などの指示を伝えてもらい、自分の感性や解釈に合わせながら演奏を仕上げていきます。耳で覚えた方が格段にスピードも上がったし、体への負担も減って、ある意味良かったです」
今回の演奏会では、バッハ(ブゾーニ編曲)のシャコンヌやベートーヴェンのピアノソナタ第31番といった大曲とともに、ブラームスの小品、シューベルトの即興曲を演奏する。「今、最も聴いてほしい曲を選びました。それぞれの作曲家の傑作といわれるような作品で、私にとっても挑戦です。その意気込みが伝わればうれしいですね」
視力を完全に失って音楽的な変化はあったのだろうか。「特にないと思います(笑い)。見えにくい自分が私の中では普通だったので、逆に、よく見える、ということはどういうことかよくわからない。むしろ、その時々の周りの刺激や自分の精神状態で音楽が変わっていくような気がします」と淡々と語る。
ロンドンへの留学予定もあり、しばらくは「学生生活」を送りながら演奏活動を続ける予定だ。「舞台の上で皆さんに音楽を届けることが何よりの幸せ。一人でも多くの方に作曲家が残した作品の魅力を私の視点、感性を通して伝えていきたい」
CDで聴く岩井の演奏は、透明感のある音色と、奇をてらわない端正な音楽作りが印象的だ。ぜひホールの空間で、みずみずしい岩井の音楽にじかに触れてみたい。【野宮珠里】
公演データ
5月26日(金) 19:00 浜離宮朝日ホール
バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ
ブラームス:四つの小品 op.119
シューベルト:即興曲 op.90 D899
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第31番変イ長調 op.110
問い合わせ:アーツ・プラン 03・3355・8227