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IoT活用で「地産地防」

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山の斜面にできた亀裂の脇に設置された監視センサー=熊本県西原村で2017年3月24日撮影(防災科学技術研究所提供) 拡大
山の斜面にできた亀裂の脇に設置された監視センサー=熊本県西原村で2017年3月24日撮影(防災科学技術研究所提供)
監視センサーを点検する熊本高専の教師(右)と地元の地質調査コンサルタント=熊本県西原村で2017年3月17日撮影(防災科学技術研究所提供) 拡大
監視センサーを点検する熊本高専の教師(右)と地元の地質調査コンサルタント=熊本県西原村で2017年3月17日撮影(防災科学技術研究所提供)

 国立研究開発法人・防災科学技術研究所(防災科研)=茨城県つくば市=が産官学と住民を取り込んで新たな防災のあり方を実践しようとしている。「今、危険なのか、何が起きているのか」といった地元住民が知りたがっている地域のピンポイントの防災情報を、地元で開発・製造した監視システムとIoT(モノのインターネット)技術を活用して住民に提供する。地産地消ならぬ「地産地防」の考え方が土台にある。

 ●“地元製”センサー

 人口約7000人の熊本県西原村は布田川(ふたがわ)断層の真上に位置する。昨年4月の熊本地震では震度7に見舞われた。村全体の55%にあたる1370世帯が全半壊。現在は集落再生のため基盤整備を進めている。村に戻りたいと考える住民は多いが、山際の地区で土砂崩れがいつ発生するかという不安は拭えないという。

 西原村布田地区。地震で斜面に亀裂が入った場所近くの数カ所に昨年9月、パイプ製のくい(長さ90センチ)が地中50センチまで打ち込まれた。くいにはプラスチックの容器に入ったセンサーがついている。センサーは防災科研、NTTドコモ、地元の熊本高専が共同開発した。熊本大学減災型社会システム実践研究教育センターや地元の地質調査コンサルタントと共に地元の住民と山を歩きながらくいを打ち込む場所を決めた。地面の動きをセンサーが感知するとすぐに、ドコモの携帯無線の通信技術を通じてメールでデジタルデータが送信される。集約されたデータは防災科研が分析し、自治体経由で住民に防災情報として届く。

 この「新土砂災害監視システム」の実験は、目で見て「何となく危なそうだ」という場所についての数値を集めて分析した結果を届けることで、住民の安心に結びつけることが目的。気軽に限定的な場所でデータを収集、分析できるようになったのは、IoTの急速な普及のほか、センサーが小型で安価になったこと、集まったデータを処理する人工知能(AI)技術の発展が背景にある。そして簡単で安い監視システムの開発に成功したら商品化して、地元企業が販売することも視野に入れる。防災科研先端的研究施設利活用センターの酒井直樹戦略推進室長は「住民の防災への対応力を向上させると共に監視システムの商品化で地域の産業も活性化したい」と夢は膨らむ。

 国と熊本県は県内の土砂災害の危険箇所を監視してデータを集めているが、監視システムは設置・維持費ともに高額だ。すべての危険箇所に監視システムを設置できない場合、西原村のように簡単にポンと設置できるものが役に立つ。4月10日に西原村の公民館で開かれた復興に関する説明会で監視システムについても伝えられた。「土砂の動きが分かれば、すぐに避難できるので不安解消になる」という住民の声が上がった。

 ●詳細な情報共有を

 防災科研は、災害の発生メカニズムを研究し、早期予測技術の開発のための基礎研究が中心だったが、被害の拡大を食い止める対応力や復旧・復興を実現する回復力といった幅広い研究にも力を注ぐ。2016年には「気象災害軽減イノベーションセンター」を設立。自治体、学校、企業、団体、住民といった関係する人々と密接に連携し、地域の特性や住民のニーズに応じた地産地防の気象災害予測情報提供システムの設置を目指している。西原村のほか、新潟県長岡市を中心とした降雪防災システムや、北海道中標津町を対象とした吹雪発生予測システムの開発も進めている。

 自然災害による被害を完全になくすことは不可能に近く「並行して生きていかなければならない」という考え方が最近では広まっている。被害を最小限に食い止め、被害があるという前提で住民の対応力を高める。「そのためには、個別の社会、地域、人に、より詳細な情報を提供することが求められる」と酒井室長。地域の特性に合った防災を自分たちで作り出すことが大切だ。【大谷麻由美】

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