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西原理恵子さん

新作は「卒母した女性の悩みや第二の人生描きたい」

西原理恵子さん=小出洋平撮影

「毎日かあさん」連載終了

 西原理恵子さんの連載漫画「毎日かあさん」(毎日新聞朝刊)が6月26日で終わります。2002年10月の連載開始から足かけ16年、通算723回にわたり、好評を博しました。しかし、息子はこの春に大学に入学、娘も高校2年生となり、自立する年となりました。かあさんを卒業した気持ちと女性の生き方、そして10月から始まる新連載について西原さんに聞きました。【聞き手・矢澤秀範】

お母さん卒業します

 --長期にわたる連載を終える決断をした理由は。

 お母さんが終わったからです。うちでは16歳が独り立ちの時と決めていて、下の娘がその年齢に達しました。自分のすることを自分で決めて、舟に帆を張り、そこに風が吹いているような状況だと思うんです。「あっ、お母さん終わった」って気が付いたんです。

 この先、私は学校に行かせたりするなど経済的な支援は必要でしょうが、それ以外はもう要らないなって。この子たちはもう絶対に大丈夫だと思っている。「後は君たち好きにしなさい。私も好きにさせてもらうので」って。家庭で家族は必ず一緒にとか、仲良くとか、そういう気持ちはあまりないんです。

 私も十分お母さんやったので、後は自分の好きな人生を送らせてもらいます。子育て終わり。お母さん卒業。各自解散!

 --子育て中の人たちに「自分の声にならない声を漫画にしてもらえた」と共感を呼びました。

 最初は「絵や字が汚い」「コマが小さい」「非常に下品」というお叱りや苦情もありました。編集部もみんな「いつやめるの」という。

 それが変わったのは2歳の娘が涙をふきながら保育園で迎えを待つ「台所」(『毎日かあさん カニ母編』収録)という回で読者から「うちもそうでした」とすごい反響がありました。

 連載当初は「子どもを保育園に入れるのは子どもを捨てる」みたいに言われていた時代だったので。社会のシステムより子供と女をたたいていた。(保育園で)子どもが熱を出してもお父さんは会社を休めず、お母さんが泣く泣く頭を下げて、ふらふらになって迎えにいく。誰も助けてくれないんです。そういう現実の中のお母さんが私を支持してくれました。

 今はかなり意識が変わってきて本当に良かったと思います。「育児は聖なるもの。育児は自分育て」みたいなものからね。

読者がママ友だった

 --ここまで続けてきて印象に残ることは。

 自分は市場のおばちゃん。毎週、市場にお店を広げて商品を出すということはすごい楽しかったですね。でも、ちょっと字が汚かったのと、描き込みすぎでした。もうちょっときれいに描けばよかったのにって。だから皆さん、ご高齢で老眼の方、本当にすいませんでした。こんなに長いこと描いているんだから、字や絵が上手になると思ったのに、なりませんでしたね。

 長い間、幸せでした。漫画家の連載は普通、打ち切られて終わるので。たくさんの読者から「そうなのよね」って言葉がたくさん寄せられたのは本当にうれしかったです。読者は保育園のママ友みたいな感じでした。年配の女性たちからお手紙やお声もいただきました。「あなたみたいな子育てを応援します。私の時はしゅうとめが怖くて」とか「夫が振り向いてくれずに嫌だったけれど、こうやって叱らず育てれば良かった」って。そういう先輩女性の非常に愛情のある声も多かったのがうれしかったですね。

 私のだらしなくて、割といいかげんな子育てを「いいよね、いいよね」って言ってくれた。みんなで慰め合ったという感じですね。共感とか励ましじゃなくて「このぐらいでよくない」「私もそう思うわ」みたいな。今まで聖域だったんですね、子育ては。お母さんってすごい大事なんですけれど、その像をちょっと私が崩したら、たくさんの女性たちから「そうだよね」って。しかもそれが先輩女性からも来たのがうれしかったですね。

夢のアニメ化も

 --「毎日かあさん」はアニメや映画にもなりました。漫画が大きな世界に広がっていったことについて。

 夢がかなった。漫画家にとってアニメや映画になることは、すごい夢ですからね。自分の作品が孫になった感じ。だからうれしくて仕方がなかったです。本当にこの仕事やっていて良かったなって。

 --読者との交流もたくさんあった。連載を続けてどんな人と出会えましたか。

 似たような人だと(漫画家の)ヤマザキマリさんと仲良くなりました。ヤマザキさんも母子家庭のママだったし、世界中放浪しているのも、私よりもっとすごい放浪ですからね。漫画家ってけっこう離婚しちゃうけれど、それがどうしたみたいな。離婚したママ、シングルママとはけっこう仲良くなりました。だらしなくていいし、昼間から酒飲んで寝てていいからっていう、そういう突破口になれたらうれしいです。

 --家族を題材にしつつも、漫画はあくまでフィクションでした。

 実際、いろんなお母さんがネタをすごい持ってきてくれたんですね。息子や娘の悪口は「大好きな恋人の悪口」なんです。非常に愛情のある悪口をいろいろ詰め合わせ、自分の子どもたちのように描いたのが本質です。だからうちの子はあんなに、あそこまでアホじゃないです。娘もいろんな女の子の要素を集めてできた。でも息子と娘は嫌がらずニコニコ笑って読んでくれた。

 非常に忙しい中、面白いお話を一生懸命持ってきてくれるお母さんはできるお母さんです。しゃべりながらのみじん切りの速さと手際の良さとかはすごいですよ。

子どもを怒鳴らずに

 --家庭のあり方が多様化している中で、シングルマザーの人もいるし、お父さんだけで育てている人もいる。子育てをしている全ての人たちにメッセージを。

 自分が腹立たない環境を作りましょう。子どもを怒らないためにどうすればいいかと考えるんです。私はそれが一番嫌だったので。怒られる子どもが一番つらいですから。私が唯一やりたかったのは「子どもを怒鳴らないですむ家にしたい」。何でそんなに腹が立っているのか5分だけ息を抜いて考えてください。子どもと自分にとって何が一番かといったら、憎しみ合わないこと、けんかしないことが大事だと思うんです。家は汚くていいですよってね。

 だから憎しみや恐怖に陥れないために、どういうふうに子育てをすればいいか。また、生活はどうすればいいかと考えればいろいろと見えます。特に女の子には結婚前からDV(ドメスティックバイオレンス)の知識、シェルターの存在、いざというときの児童扶養手当や生活保護の受け方などを結婚前の知識としてきちんと入れておいてほしいです。初動の逃げ遅れで大変なことになるっていうことがあり、そういう事例をたくさん見てきました。「立派な子育て」とか「素晴らしい子育て」とかいう言葉ならたくさん並んでます。私は危機回避を先に知っておいてほしいです。

 --「16年楽しかった」ということですが、さみしさはありますか。

 すごくさみしいですね。さみしいけど、もう子どもに干渉しちゃいけないんだろうなと思って。私は自分から子どもに話しかけないですから。向こうから話しかけてくれたら大喜びで何でも答えるけれど、こっちからは言わないですね。とにかく子どもたちの人生には口を出さないように。私も「何かしろ」と言われるのは嫌だったし、親の言うことを一つも聞かなかったので。

女性の一番楽しい時期

 --10月から始まる新連載の構想は。

 一番心配なのが「何も変わってねえじゃん」って言われること。だって手も覚えちゃっているし、体も覚えちゃっているから。

インタビューに答える西原理恵子さん=小出洋平撮影

 ただ、シリーズも13巻になって、飽きてきた人もいるかもしれないし、どっから読んだか分からなくなって同じ巻を2冊買っちゃうとか、私も同じ本を3回買ったことがあるからね、そんな方がいっぱいいそうなんでここらでリニューアルしようと。

 子どもたちは家族としてちょっと描かせてもらうけど、もうそんなに出てこない。これまでキャラにして金もうけしてごめん。だから、変わらなかったからって怒らないでね。

 卒母(そつはは)した同じ女性たちの悩みや第二の人生を描きたい。女性にとって一番楽しい時期なんです。周りの卒母した人たちは素晴らしい人生のうんちくを持っているし、そんな古い固定観念に縛られていない「野良母」みたいな人がいっぱいいる。そういう人たちのお話もものすごくいい人生模様です。だからその多様性、年いったおばさんたちの柔軟な人生を描ければ。

 --子育てが終わって自分のために生きる女性ですね。

 私は子どもの頃、おばさんになるといいことが一つもないと思っていたんです。だって、おばさんは皆すごく怒っていた。子どもをばんばん殴っていたし、旦那には殴られていたし、しゅうとめにいびられ。近所中のおばさんが皆ボロボロの服を着て、毎日のように誰かの悪口を言っていた。女の人にとっては最悪な時代だったと思うし、その前はもっと最悪だったかもしれない。でも、うちの母親あたりから変わっているんですよ。「私がやられたから、あんたはそんな目にあってほしくない」って。私たちの母親が変えてくれてすごく感謝しています。

 あの女性たちのお陰で私たちは楽しく女性として生きている。だから娘たちにはもっと楽しく生きてほしい。私たちは今、ものすごく自由なおばさん期で、周りの女性たちもすごくおばさんであることを楽しんでいて、みんな「若い頃には戻りたくないわね」って言うの。それこそ合言葉は「なくしたのはウエストだけ」。今58センチのウエストが手に入ったとして、若い頃の何のキャリアも経験もない頃に戻るかっていったら、そりゃもう戻りたくないなって。

 私たちのお母さんが変えてくれたように、私たちも次の世代の常識を変えていきたい。おばさんの愚痴と説教だと思って読んでください。

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