メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

 「よるになるとすずしいね」

     わたしは毛布もうふから片足かたあしした。つめたい空気くうき気持きもちいい。

    「うん」

     となりのベッドにいるあに左足ひだりあしした。

    「おにいちゃんさ、あと2週間しゅうかんでアメリカにかえるんだよね」

    「うん」

    「これからもずっとアメリカにむの?」

    「どうだろうね」

    「わたしがまたアメリカにもどることもあるのかな」

    「……さぁね」

     あにはそううと、わたしの反対側はんたいがわからだけてしまった。わたしはあに背中せなかつめた。「なんで?」とくと、いつもこうなる。

     まどそと星空ほしぞらに、視線しせんうつした。ニューヨークでも、寝室しんしつまどがあり、ときにいつも夜空よぞらていた。

    「アメリカにいるときおもすね」

    「そう?」

    おもさない?」

    べつに。だってここは日本にっぽんじゃん」

     全然ぜんぜんちゃんとこたえてくれない。

    「ねぇ、もしさ、ずっとこのままはなれてらしてたとしてさ……しかもさ、もしも、だよ」

     わたしはアメリカのちちのことをいた。

    まんいちにそうになったらさ……どうなるの? わたし、そのときに連絡れんらくもらっても、わないかもしれないよね?」

     いながらどんどんかなしくなってきた。

     あには、なにこたえない。わなきゃよかったかも。でも、もうおそい。

    「ねぇ、それにさ」

     のどがヒクヒクしはじめた。

    「もしもだよ、おかあさんがんだらさ……。そのとき、おにいちゃんはすぐに日本にっほんれるの?」

     なみだがあふれた。そのときあにがやっとこたえた。

    「……大丈夫だいじょうぶだよ」

     あったかいこえ魔法まほうにかかったかのように、むねがすーっといた。

    大丈夫だいじょうぶだから。もう、なよ」

     あに言葉ことばが、とおくなる。いつのにかわたしはねむりにちていた。

      + + + +

     あのときあには10さい家族かぞくはなれてらすようになって、あにさびしさを我慢がまんしていたはずです。でも、「大丈夫だいじょうぶだよ」をえたかれは、やっぱり「おにいちゃん」なのだなとおもうのです。

     『にあんちゃん』にも、たくましいおにいちゃんがてきます。両親りょうしんくした4人兄弟にんきょうだい一番下いちばんしたすえは、生活せいかつ様子ようすをていねいに日記にっきにつづります。まずしく、べるものもすくなく、学校がっこうけるかどうかもあやうい状態じょうたいです。でも、おにいさんやおねえさんとささえあって、つよきます。

     いまから60年前ねんまえ実話じつわです。大人おとなおもうより、子供こどもって、たくましいちからをもっているのかもしれません。


    『にあんちゃん』

    安本末子やすもとすえこちょ

    角川文庫かどかわぶんこ 596えん


     エッセイストの華恵はなえさんが、ほんにまつわるおもきなほん紹介しょうかいします

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 不明 山口・周防大島の2歳児見つかる 親戚宅北側山中で
    2. 不明 帰省中の2歳児、曽祖父宅近くで 山口・周防大島
    3. イタリア 高速の高架橋崩落で35人死亡 車20台落下か
    4. 名大・旧制高 「クラス日誌」公開 理系生徒、戦時の本音
    5. シェアハウス不正 スルガ銀、スター銀欺く 融資引き出す

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです