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養老孟司・評 『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』=キャスリン・マコーリフ著

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 (インターシフト・2484円)

感染症への警戒から嫌悪は生まれる

 寄生している生きものが宿主の行動を操作する。寄生虫が自分の生存に都合のいいように相手を動かしてしまう。そういう事実がいくつも知られるようになった。おそらくテレビや書物で、そうした例を見聞きしたことがある人は多いと思う。

 たとえばある種のハリガネムシは、コオロギを操作して、水に飛び込ませるようにする。水に飛び込んだコオロギは間もなくカエルや魚に食べられ、ハリガネムシは水中に脱出して、次の宿主を探す。べつな吸虫(きゅうちゅう)は磯の小魚の脳に取り付き、小魚の行動を左右する。取り付かれた魚は水面近くで反転するという行動を頻繁にとるようになり、これは目立つので、鳥に食べられやすくなる。魚が食べられたら、吸虫は今度は鳥の腸で育つ。こうした既知の例を挙げていけば、いまでは相当な数になる。本書の最初の三分の一は、こうした事例を扱う。専門的には神経寄生生物学と呼ばれる分野である。

 次の三分の一は、われわれヒトにも常在、あるいは感染している微生物と、宿主との関係である。たとえば世界人口の三〇%の感染者がいるとされるトキソプラズマ。この原虫は脳に親和性があり、ひょっとすると交通事故を起こしやすくしたり、統合失調症を引き起こす可能性があるのではないか。それなら撲滅しろと、即座に思われるかもしれない。しかし感染者は男性では男性ホルモンの産生が盛んになり、ひょっとしたら、感染前より…

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