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岡崎 武志・評『謀叛の児』『場面設定類語辞典』ほか

今週の新刊

◆『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』加藤直樹・著(河出書房新社/税別2800円)

 近代日本に、まだこのような傑出した人物が存在したのか。加藤直樹『謀叛の児』は、現代日本が名のみ知り、遠ざけていた宮崎滔天(とうてん)の浩瀚(こうかん)なる評伝だ。

 一般的には、中国の独立を目指す孫文を支援し、辛亥革命を支えた革命家、および「右翼の大陸浪人」と定まった固定観念を、著者は修正していく。自由民権運動とキリスト教精神から、ナショナリズムを超え、「世界的人間」という視野を持つ人物であった。

 彼は中国革命支援に向け、軍資と同志を募るため、浪曲師となった。これが何ともユニークなところ。革命と芸能の振り幅の中に、義侠(ぎきょう)と理念を兼ね備える。そのことができた点に、彼のスケールの大きさがある。維新以降、滔天が投げかけた世界的視野による日本批判は、何ひとつ解決できていないのではないか。

 わが民族の驕慢(きょうまん)を憂い、日米戦争の敗戦を歓迎すると言い放った革命家。彼が投げた石つぶては、我々の後頭部を撃つはず。

◆『場面設定類語辞典』アンジェラ・アッカーマン+ベッカ・パグリッシ/著、滝本杏奈/訳(フィルムアート社/税別3000円)

 580ページ超えの大冊に、文字がびっしり詰まっている。アンジェラ・アッカーマン+ベッカ・パグリッシ(滝本杏奈訳)『場面設定類語辞典』は、タイトルから中身を想像するのは難しい。

 小説や映画やマンガには、物語や登場人物を印象づける場面設定がある。それが魅力的であることが、作品の成否を決める。そこで、さまざまな場面で成立しうる「見えるもの」「聞こえるもの」「匂い」「味」などを、こと細かに挙げてみせたのが本書だ。

 たとえば「公衆トイレ」では「蛇口からポタポタ水が滴り」が見え、「どこにも触れないようにと幼児に命じる親」の声が聞こえる。「誰かが個室の中で待ち伏せている」こともありうる。恐い! そこで得られる効果は「雰囲気の確立」と「緊張感と葛藤」だ。

 同様に「楽屋」「カジノ」「死体安置所」「カフェ」「花屋」などで起こりうる「場面設定」が提示される。想像力が広がり、あなたも小説が書けるかも?

◆『中西悟堂 フクロウと雷』中西悟堂・著(平凡社/税別1400円)

 「科学のこころ」を本棚に、というコンセプトで刊行される随筆シリーズ第2期。『中西悟堂 フクロウと雷』が出た。中西は日本野鳥の会創立者で、歌人、詩人、僧侶でもあった。30歳から3年間の木食(もくじき)、戦後、冬でもパンツ一丁で生活するなど奇人でもあった。しかし、自然と鳥を見つめる目は鋭く優しい。表題作は、大の雷嫌いの弁とともに、毎年続けたフクロウの観察記録から成る。「雲雀の歌」は、雲雀の訓練法、鳴き方の研究。こういう人が鳥好きだったことは、鳥にも幸運だった。

◆『小説 浅草案内』半村良・著(ちくま文庫/税別780円)

 2002年に死去した半村良は、伝奇SF小説で名を成したが、一方で市井に生きる庶民の哀歓を描く名手でもあった。『小説 浅草案内』は、人情小説の傑作であるとともに、昭和末年の浅草の姿を映してみごとな味わい。50過ぎの独り者の小説家が、友達が住む浅草へ越して来た。三社祭が近づき、活気づく町と人。生き物禁止のマンションで、雄ネコを飼う若者が、「アケミ」と名付けた理由は? おしるこ「梅園(うめぞの)」、並木の「藪」、橘家円蔵など、実名が登場し、リアル感を満喫できる。

◆『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』出雲充・著(小学館新書/税別780円)

 東大卒、旧・東京三菱銀行と出世街道を走る出雲充が、『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』。著者は、世界初のミドリムシ屋外大量培養に成功したベンチャー企業「ユーグレナ」の社長。石油、原子力で解決できない未来のエネルギー問題の救世主が、わずか0.05ミリの「およそ5億年前に地球上に生まれた単細胞生物」だという。これこそ、地球を救うハイブリッド。また、成功までの苦難と挫折の道も語られ、起業家には参考になるはず。「いいね!」連発必至。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年6月4日号より>

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