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特集ワイド ミサイル「危機」狂騒曲 踊らされているのは誰? 学校が「対応」のお知らせ配布 それでも原発は再稼働

コラージュ・日比野英志

 イソップ寓話(ぐうわ)「オオカミ少年」とは言うまい。だが、北朝鮮による昨年の2度の核実験や相次ぐ弾道ミサイルの発射に「危機」を強調する政府の対応に違和感が拭えない。確かに不安は感じるが、私たちが見落としている面はないのか。【田村彰子】

     <弾道ミサイル発射時の学校対応について>とタイトルが付いたお知らせを見て、東京都世田谷区在住のNPO法人理事、中山瑞穂さん(47)は仰天した。4月29日の朝のこと。小学生の息子が持ち帰ったペーパーには、同区教育委員会と学校長の連名で、全国瞬時警報システム(Jアラート)や防災無線放送があった際の対応が書かれていた。「児童が屋外にいる場合」の対応は(1)近くにある建物の中に入れてもらい、窓から離れる(2)近くに建物がないときは、物陰などに身を隠し、頭部を守る--と記されていた。

     「ママ友」と連絡を取り合い、不安に陥った子どもが泣いたという話や、担任から説明を受けたクラスがあったらしいと聞いた。テレビをつけると、この日の早朝に北朝鮮が弾道ミサイルを発射。これを受けて東京メトロやJR西日本などが一時運休したことを報じていた。

     このお知らせは、内閣官房の国民保護ポータルサイトに掲示されている文章とほぼ一緒の内容だ。世田谷区教委に取材すると、4月21日に国から都を通じて、弾道ミサイル発射時の際の行動などを周知するように通知が届いたと説明した。中山さんは「この『対応』で子どもを守れるとも思えず、結局、教育現場を通して、子どもに無用な『印象づけ』をしただけなのでは」と割り切れない思いを明かす。

     滋賀県内の学校でも同様の文書が配られ、宮城県では県教委が避難訓練を促した。「お知らせ」通りに行動すれば安全は確保できるのか。軍事アナリストの小川和久さんに尋ねると「政府の危機管理は全くできていません」と即答した。続けて「現在の態勢では、北朝鮮がミサイルを発射すると1分以内に米国から官邸に情報が入ります。そこからすぐに国民に周知しないと警報の意味がありません」と言い切った。その理由とは?

     内閣官房の担当者によると「発射から約4分でJアラートが作動する」という。小川さんが問題視するのは警報発令までの時間だ。「多少の差はありますが、多くは発射から8分もあれば日本の国土に着弾してしまう」と説明する。たとえ最速の「4分後」に国民が発射を知ったとしても、「避難行動」に残された時間は4分程度。これでは訓練を積まないと政府が推奨する行動は取れない、というのが小川さんの主張である。

     さらに「もし、日本がミサイルに本気で対応する気なら」と前置きした上で、イスラエル国民の訓練を挙げた。

     その内容について、小川さんと一緒に危機管理を研究する静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんが話す。「イスラエルでは、レバノンなどから発射されたと想定する弾道ミサイルやロケット弾の発射警報から着弾までの時間が場所によってあらかじめ計算され、国民に周知されている。その上で訓練をしているのです」

     万全の態勢を築くのは困難かもしれない。それでも小川さんは「日本政府が国民に警戒を促すのならば、せめて地下鉄や地下街の地上入り口を広げ、シェルターとして逃げ込みやすくする整備はしてほしい。訓練もやるべきです」と指摘する。

     韓国にいる日本人の救出体制も気に掛かる。小川さんは「6万~7万人の救出が見込まれ、日本政府は、北朝鮮が韓国を攻撃した場合、米軍による警護や海路での退避を想定していますが、米軍には余力はないし海路は海上封鎖で使えない。全くお手上げです」と手厳しい。小川さんは、米国には10日間で12万人以上の米国関係者を空路で退避させる計画があると言う。「政府は2011年の(中東の民主化運動)『アラブの春』で、リビアから23人の日本人を救出できなかったが、中国は4万2600人を脱出させた。あれから何も変わっていないのです」

     政府が「危機」を強調する一方、原発の再稼働を進めていることも理解し難い。17日には関西電力の高浜原発(福井県高浜町)の4号機が再稼働し、今は4基が運転中だ。もし、原子炉や使用済み燃料プールにミサイルが命中したら--。

     「放射能毒性の強力なプルトニウムやウランまでもが大量に大気中に放出されます。湾岸戦争で米国が使用して大問題になった劣化ウラン弾より深刻な被害になるでしょう」。こう予想を語るのは、原子力コンサルタントの佐藤暁(さとし)さん。「現状のミサイルの精度が、原子炉などにピンポイントで命中するほど高いとは思わない」とも言うが、原発を攻撃されるリスクを想定しなくてもいいのだろうか。

     佐藤さんは「米国では、原発の対ミサイル防衛は事業者の責任範囲を超えるが、航空機テロに対しては、国と連携して備えています」と説明する。各原発には150人程度の「戦闘部隊」が配置されているという。「屈強な部隊ですが、テロ集団の不意打ちに防衛しきれない可能性もある。同時に住民避難も必要で、かなり困難な対応となります」

     東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で思い知らされたように、原発は「絶対に安全な施設」ではない。「1万年に1回の地震や津波を設計基準にしていると言ってはいますが、今やテロは日常的であり、世界大戦の頻度でさえ、これよりもはるかに高い」。「危機」の中で原発を稼働させるリスクを政府は想定していないのか。

     政府の対応に釈然としないのはなぜか。政官界などの内部事情を詳報する情報誌「インサイドライン」の歳川隆雄編集長は「ひとしきり不安をあおられた国民からすれば不満でしょう」と切り出し、注目すべきは安倍晋三首相の行動だと指摘した。

     予定していた外遊を切り上げて4月30日に帰国した安倍首相はゴールデンウイーク後半にゴルフを楽しんだ。歳川さんは「5月1日に北朝鮮が核実験をするかもしれないとの情報が流れたので帰国を早めたが、何もなかったのでゴルフをしたのでしょう。軍人出身の米国防長官は、兵士の命の尊さを十分理解しており、決してタカ派ではない。実は過激なタカ派は、トランプ政権の中枢からは外されています。官邸もそうした状況を把握しており『両国は開戦という最後の一線は越えないだろう』と思っているはず」と推測する。

     歳川さんがトップの危機管理が問われた事例として挙げたのは、01年2月に米ハワイ沖で起きた米原子力潜水艦衝突による実習船沈没事故だ。愛媛県の高校生ら9人が犠牲になったが、事故の一報を聞きながら森喜朗首相(当時)は、ゴルフを続行したことで批判され、退陣につながった。「安倍首相はこの事例を肝に銘じていたはず。それなのにゴルフをしたのは、安倍1強による緩みもあり、そこまでの『脅威』だと思っていない本心が出たのでは」

     「朝鮮半島有事」を安倍首相は利用しているとも読む。その一例が、憲法9条に自衛隊を明記する改憲発言である。「国外の危機をうまく使い、自らの理念の実現に利用しようと考えても不思議ではありません」

     国の外に敵をつくり、危機をあおって国民をまとめる手法は歴史上、繰り返されてきた。私たちは今こそ、事態を冷静に見極める必要があるのではないか。

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