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「ワンオペ育児」ユニ・チャーム論争の的に

ユニ・チャームが動画サイトで公開している、おむつ「ムーニー」のCMのワンシーン。「ムーニーから、はじめて子育てするママヘ贈る歌。 『moms don’t cry』(song by 植村花菜)」より

 女性に向けた企業の広告動画(CM)が炎上するケースが相次いでいる。最近では、子育てを母親だけが背負う「ワンオペ育児」を美化しているとしてユニ・チャームのオムツ「ムーニー」のCMが論争の的となった。そこから浮かぶ現代の広告事情や育児の現状は……。【中村かさね/統合デジタル取材センター】

ユニ・チャームのCM炎上「男性目線」「ワンオペ育児の美化」

 議論を呼んでいるのは、同社が動画サイトで公開したオムツ「ムーニー」のCM

 母親が初めての育児に孤軍奮闘するが、食事や睡眠はままならず、部屋も散らかっていく。他のママが立派に見える。女性の表情には次第に苦悩がにじむ。ふと、自分の指を握る小さな手の存在に気づき、涙ぐみ笑顔がこぼれる--。最後の字幕は「その時間が、いつか宝物になる」。

 CMには父親がほとんど登場しない。動画投稿サイトでの公開直後は共感が広がったが、ツイッターなどで拡散するにつれて批判も多数上がった。

 記者自身も「ワンオペ育児」の記憶がよみがえり、鳥肌がたつほどリアルだと感じた。でも最後のメッセージには今なら納得しても、当時なら突き放されたように感じたと思う。

 実はユニ・チャームは今月上旬に別のネットCMが炎上し、公開を中止したばかり。こちらは生理用品タンポンのCMで、「彼女の生理中に困ったことがある?」という男性へのアンケート結果を紹介したものだった。「旅行の予定がキャンセルになった」などの男性の回答を列挙した内容が「男性目線だ」と批判を浴びた。

 同社広報は「誤解を与える表現だった」としてタンポンのCMは削除したが、ムーニーのCMは、「育児のリアルを描き、育児中の母親を応援したいという意図は伝わっていた」と公開を続ける。その姿勢を評価する声もある。

ライバル社のCM絶賛 女性管理職比率の差?

 ムーニー論争の余波で、外資系P&Gのオムツ「パンパース」のCMも注目された。人種も月齢も異なる赤ちゃんたち。母親だけでなく、父親も親戚のおばちゃんも登場する。夜間に往診する医師やバスの運転手、通行人--。誰もが赤ちゃんを温かく見守る。最後のメッセージは「世界でいちばん大切なキミのためなら、いつだって、いちばんのことをしてあげる」。

 パンパースのCMは絶賛され、P&Gの女性管理職比率がユニ・チャームよりもはるかに高い点を挙げて「会社の姿勢が出ている」と評価する声も上がった。

 だが、ユニ・チャームのCM制作に女性が関わっていなかったわけではない。同社広報によると、ソフトタンポンのCMは女性をターゲットとした専門チャンネルに制作を依頼し、ユニ・チャームの監修メンバーも半数は女性だった。大手広告代理店に制作を依頼したムーニーのCMも、制作や監修に関わるメンバーには育児中の男女がいた。完成した動画を「リアルに描けた」と評価し、今回のような批判は想定していなかったという。

女性がターゲットのCMに女性が反発

 女性をターゲットにしたCMのはずが、肝心の女性の反感を買うのは今回が初めてではない。さかのぼれば、1970年代、食品のテレビCMの「私作る人、僕食べる人」という表現が批判され、放送中止となる事例があった。こうした「男性目線」で炎上し、公開中止になるCMは今もある。

 限られた秒数で商品を宣伝しなくてはならないテレビCMと違い、ネットで公開する動画では、時間をかけてブランドに込めた企業のメッセージを伝えられるようになった。なのに、なぜ炎上が起きるのか。

 企業の広報アドバイザーを行う「シプード」の船木真由美社長は「情報があふれる時代、ターゲットにメッセージを届けるには、少しエッジを利かせた表現も必要になる。ところがインパクトを求めると、ターゲット以外にもソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で一気に拡散し、炎上する可能性がある」と指摘。ムーニーのCMについて「意図は伝わるが、女性は『では、どうすればいいのか』という解を求めている。次にどんなメッセージを発するかが大切だ」と続編を期待する。

企業は多様性を重視した広告作りを

 船木さんは「CM制作には宣伝だけでなく、広報も関わるべきだ」と主張する。炎上への過剰反応には否定的だ。「制作段階からメッセージが世に出た時にどう受け止められるか意識することが大事。炎上の可能性を含んだ内容でも発信すべきだと判断するなら、炎上への対応を準備しておく。炎上したら削除するのではなく、マーケティングとして次につなげることも必要だ」

 一方、谷口真美・早稲田大教授(経営学)はインパクトありきのCMには否定的だ。「日本の広告は単発でどれだけの効果が得られるかを重視しがちだが、一発狙いでは不快に思う人も出てくる」と指摘。海外では誰が見ても不快に思わないよう時間とお金をかけて市場調査を行うといい、「日本でもいろいろな受け止め方をする人がいること、多様性をもっと意識した広告作りをすべきだ。一発効果はあきらめ、長期的に企業や商品のイメージを作るよう発想を変える時だ」と強調する。

小島慶子さんら、東大でシンポ

 今月20日には、五月祭で盛り上がる東京大でメディアと表現について考えるシンポジウムも開かれ、CM炎上についても議論が交わされた。

 相模女子大客員教授の白河桃子さんは「一言で女性といっても、価値観や意見は人それぞれ。多様な人がいないと、本音で意見が言い合えない」と作り手のダイバーシティーの重要性を訴えた。

 女性とメディアを研究する田中東子・大妻女子大准教授はSNSについて「女性にとって重要な意見表明の場だが、瞬時に燃え上がり、忘却されていく」と分析する。「炎上したからといって直ちにCMを削除したり、批判したりするのではなく、いろいろな意見を持つ人と時間をかけて対話をし、理解を深め合えるような工夫が必要だ」と指摘した。

 一方、共働き夫婦向けの育児情報を発信している日経DUALの羽生祥子編集長は「男女を逆に作ってみては」と提案。日経DUALでは「ママ、お母さん」と打つと「パパ、お父さん」と自動変換するようにキーボードを設定したところ、「パパ」ばかりにアドバイスを送る記事ができあがったという。「一度ビジュアル化してみれば、おかしいことに気づくはずです」と語った。

 発起人のエッセイスト、小島慶子さんは、テレビ番組の収録現場で女性の年齢や容姿、芸人の性的指向が笑いのネタにされている現状を報告し、「私は笑えないし、笑わない。でも意思表示だけでは、メディアや言説空間は変わらない。発言や笑っていいということが再生産されてしまう」と対話の必要性を訴えた。

ムーニーのCMに対する反応(ツイッターより)

【共感】

・勇気づけられた。私だけじゃないんだ頑張ろうって。

・すごく感動した。涙出そうになった。共感の嵐だった。

・実際ワンオペ育児がマジョリティーで、多くの人には刺さってるだろうし、炎上しても取り下げない会社の姿勢に好感持てる。

【批判】

・軽い気持ちで見たら、息子乳児期のワンオペ時代をフラッシュバックしてうっかり吐きそうになった。

・つらかった時期思い出して泣ける。あれを見て何を思えと。何を伝えたかったのか。

・涙止まんなくて自分では感動したと思ってたんだけど、そうか古傷えぐられたのか。

・誰かに「その時間が宝物になる」って言われたら当時の私はつらかっただろうな。

【提案など】

・話題になっても世の男性にはスルーされてるんだなと思うと悲しくなった。

・これと対になる「お父さんバージョン」を作って。

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