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くらしの明日

私の社会保障論 格差社会の落とし穴=千葉大予防医学センター教授・近藤克則

近藤克則氏

公平性への欲求消せぬ

 老後の生活資金に3000万円は要るという。月10万円として年に120万円。60歳からの25年分で3000万円になる。近づいている人生100年時代になれば40年分だから約5000万円である。これに医療や介護の費用も加わるから、これでも最低必要額である。この額を貯金だけで賄える世帯は少ない。それでも健康で文化的な最低限度の生活を保障しようと作られた仕組みが年金制度に代表される社会保障だ。

     その財源は、お金持ちほど多く負担している。一方、多額の貯金があるお金持ちは社会保障制度がなくても困らない。なるほど、お金持ちから見ると費用だけを負担させられる理不尽な制度かもしれない。それでも社会保障が必要とされてきたのには理由がある。

     第一に、かつて「格差こそ経済成長の源泉だから必要悪だ」という声が大きかった。しかし、所得格差が大きくなりすぎると経済成長すら損なうことがわかってきた。経済協力開発機構(OECD)は2014年、日本のようにこの20年間に格差が拡大した国ほど経済成長率が低かったと報告した。社会保障は格差を縮小するよう、うまく設計し見直しをすれば成長戦略にもなるのだ。

     第二に、経済格差は拡大する性質がある。経済学者ピケティが「21世紀の資本」で示したように、過去200年以上、資本を持つ者は持たざる者より多くの富を手に入れ格差は拡大してきた。格差が大きくなると何が起きるか。社会は分断され治安の悪化、テロの多発などで社会が不安定になる。そうなれば失うものが大きい富裕層ほど多額の警備費を自己負担して守ることになる。それよりは社会保障による所得再分配の方がマシではないか。

     第三に、格差社会が不安定になるのには理由がある。人は利益だけでなく公正さも求めるからだ。「最終提案ゲーム」という実験がある。1000円を渡され見知らぬ誰かと分けるように言われる。あなたが示した額に相手が同意すれば分け合うが、拒否されたら両者とももらえない。合理的に利益だけを考えると、相手は少額であっても同意しそうだ。実際にやってみると、300円以下だと半数は拒否し、平均提示額は450円だという。人は何かを犠牲にしてでも不公正を罰したいという感情を持つ社会的動物なのだ。

     なるほど社会保障は、直感的な損得勘定から見ればお金持ちにとっては損な制度である。しかし正しいことが常にわかりやすいわけではない。いろいろな面から見てみると、お金持ちにも社会保障は合理的な制度である。その証拠に数十年単位で見れば社会保障は拡充を続けてきた。目先の損得勘定などで論議せず、社会保障を守り拡充していく社会であってほしい。(次回6月7日は秋山正子さん)

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