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<論点>人口減少、どう備える

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 国立社会保障・人口問題研究所が5年ぶりに公表した将来の推計人口によると、日本の2065年の人口は15年に比べ3割減の8808万人となり、高齢者の割合は38.4%に達する。人口が1億人を割るのは前回推計よりも5年遅い53年になったが、少子高齢化と人口減少の流れは止まらない。日本はどんな国を目指せばいいのか。

    教育改革で生産性高めよ 河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト

    河野龍太郎さん=宮武祐希撮影

     安倍晋三政権は「半世紀後にも人口1億人を維持し、希望出生率(結婚して子どもを持ちたいという人の希望がかなえられた時の出生率)1・8を実現する」という目標を掲げている。高い目標を掲げるのはいいが、将来推計人口をみると、実現が難しいのは明らかだろう。

     では、人口減少の中でも縮小均衡を避け、持続可能な社会にしていくには、どうしていったらよいのか。

     日本の経済成長率は安倍内閣発足後も年率1%をわずかに超えるに過ぎない。労働力人口の減少が経済成長の妨げになっているのは間違いない。しかし、近年の低成長は、労働力の低下だけが原因ではない点に問題がある。

     労働力人口が減っても、経済規模を維持するのは不可能ではなく、1人当たりの生産や所得、消費が増えていれば問題はない。ただ、そのためには生産性を高めることが不可欠だ。規制緩和や構造改革によって、イノベーション(経済発展につながる技術革新)を担う新規企業の参入を促していく必要がある。

     政府は近年、財政や金融政策で極端な緩和策を取り続け、高い経済成長を目指している。だが、それが逆に経済の実力を押し下げている側面もある。ゼロ金利でしか採算が取れないビジネスや既存企業を後押しすることになり、新規参入者を妨げている。このためイノベーションが伸びず、生産性も上がらないのだ。

     高い成長によって問題解決を図るのではなく、低成長の中でも持続可能な社会制度に変えていくこと、とりわけ、社会保障制度を改革することは重要だ。

     日本の社会保障制度の対象は高齢者が中心で、現役世代に対するセーフティーネットは正規雇用が前提だ。増え続ける非正規労働者に対するセーフティーネットはほとんど作られておらず、不況など社会の大きな変動が起きた時、非正規労働者という最も弱いところに雇用調整圧力が集中してしまう。その先行き不安があるため消費も伸びない。

     コストを負担する現役世代が減り、高齢化がさらに進むことを考えると、社会保障の対象は「年齢、世代にかかわらず、困った人をサポートする」方向に変えていかなければならない。経済成長を促すうえでも、社会保障制度の改革は必要だ。医療、介護サービスは厚生労働省による強い規制のもと公的保険でカバーされ、高齢者の自己負担が少ないため、過剰なサービスが消費されている。

     このままでは財政赤字の原因になるばかりだ。例えば、生死にかかわりのない、生活の質を高めるような医療、介護サービスについては、公的保険ではなく民間の保険に任せることができないだろうか。民間事業になれば、医療、介護を成長分野にしていくことも可能だ。

     生産性を上げるという面からは、教育制度も見直す必要がある。現行の「6・3・3・4制」は戦後まもない時期にできたものだ。当時の日本人の平均寿命は男女とも60歳に届かなかった。今では80歳を超えている。健康に日常生活を送れる「健康寿命」も延び、働く期間が圧倒的に長くなっている。

     多くの先進国では、大学院への進学者が増えているが、日本は文系に限ると、相変わらず大学4年までが大半だ。会社に入って初めの10年は大学教育さえ不要かもしれないが、20年、30年と働き続けた段階で個々人が生産性を高めていこうとすると、大学教育だけでは不十分だ。

     日本の実質賃金が低迷しているのも、個々人の生産性の伸びの鈍化が関係している。能力は一人一人異なるが、平均的な生産性の底上げをするという意味で、大学学部レベルよりも上の教育が一般的になる必要があるのではないかと思う。

     団塊世代が75歳以上となる2025年には医療、介護の費用が膨らみ、国内総生産(GDP)に占める政府消費支出の割合が増大し、今のままでは資本の取り崩しが始まる。経済規模が縮んでいくということだ。そうなる前に改革を進めなければならない。残された時間は少ない。【聞き手・山崎友記子】

    若者呼べる「面白い」町を 平田オリザ・劇作家

     私は楽観的な人間なので、今回の推計で人口減少のスピードが5年前よりも鈍ったことに希望が見えてきたと感じている。「人口減のカーブをいかに緩めるか」ということが一番の課題と考えているからだ。

    平田オリザさん=小出洋平撮影

     まず人口が減ることは、ある程度は仕方ないと受け止めるしかない。戦後の高度経済成長のようなことが簡単に起きることもない。司馬遼太郎はエッセー「この国のかたち」で「卑屈なほどのリアリズム」という表現で現実を直視する明治人を論評したが、私たちも自分の国の将来について、夢を追うばかりではなく、きちんと悲観することも大切だ。

     日本は、移民を急速に受け入れない限り、少なくとも30年は人口減が止まらないだろう。しかし、急速な減少は社会の不安定化を招く。急坂を転げ落ちないように、そろそろと下りていくことが求められている。

     東京のような大都市と地方は分けて考えなければならない。それぞれが抱える問題が全く違うからだ。東京は人もモノも飽和状態にある。だから、東京から、うまく人を減らしていくことが大事だ。

     一方、地方は放置すれば人口が急減し、崩壊してしまう。だが、地方の崩壊を止めることは不可能ではない。人口減が緩やかになったり、増加に転じたりする自治体が出てきている。そこに希望がある。こうした自治体が取り組むのは、Iターン(都会出身者の地方移住)やUターン(地方出身者の都会から地方への再移住)などを促し、「東京一極集中」にあらがう政策だ。

     例えば、岡山県北東部にある奈義町は2年前、合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)2・81という全国有数の高さを記録した。地道な子育て支援に加えて、地域の伝統芸能「こども歌舞伎」など文化、教育活動を充実させることで、若い子育て世代の転入が増えているためだ。

     また、「コウノトリの郷」で知られる兵庫県豊岡市のスローガンは「小さな世界都市」だ。世界中の劇団に施設を無償で貸して世界と直結する街づくりを進めるなど先端的な施策を打ち出しており、人口減のスピードが鈍りつつある。香川県・小豆島では、瀬戸内国際芸術祭などを通じて島外との交流が深まり、年200人以上が移住している。

     地方の人口減の原因は「仕事がないためだ」とよく言われ、政治家は工場や産業の誘致に躍起になる。だが、実際は地方にも仕事はある。大学生たちに聞くと、東京から地方に戻らない理由は「田舎はつまらないから」だと言う。逆にIターンやUターンで成功している自治体は、住民が地域の文化や伝統に「オンリーワン」という誇りを持ち、それが地域で育つ子どもたちにも伝わって、「面白い」町になっている。

     地方だからとあきらめるのではなく、若い世代が子どものために求める英語、バレエ、ピアノなどのレッスンを自治体が無償提供するといった従来にない施策が必要だ。実際、若い世代はそうした自治体を選び始めている。さらに、若い母親たちが気兼ねなくおしゃべりできるおしゃれなカフェがあれば文句ない。

     もちろん、文化だけでは食べてはいけない。増大する社会保障費をどうするのかという問いもある。しかし、芸術文化が街づくりの「必要条件」になっているのは事実だ。文化がない街は若者にとって「つまらない」からだ。住民が自己決定能力を高め、税金の使いみちを自ら決めることが一つの解決策になるだろう。奈義町では高齢者が自ら相互扶助に取り組み、町内で役割を担い、社会保障費削減を進め始めている。

     こんな話は「夢物語」と思われるかもしれない。だから、人口減カーブを緩めるカギを握っている地方で小さな成功例を地道に積み上げていくしかない。人口減を受け入れることには「寂しさ」がつきまとう。しかし、寂しさに耐え、「この生活も悪くない」という自己肯定感や、地域への誇りを持つことが日本の崩壊を食い止める。急坂を転げ落ちないため、皆で変えていくしかないのである。【聞き手・永山悦子】


    現役世代 2065年には4割減少

     将来推計人口は5年ごとの国勢調査を基に公表され、社会保障政策の基礎データとなる。今回は2015年の国勢調査から、50年後(65年)までの人口の推移を算出した。65年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は前回推計(60年)より増えたが、現役世代(15~64歳)の人数は15年比で4割減り、総人口の51.4%となる。15年は高齢者1人を現役世代2.3人で支える「騎馬戦型」だったが、65年は1.3人で支える「肩車型」になる。


     ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    こうの・りゅうたろう

     1964年愛媛県生まれ。横浜国立大経済学部卒業。住友銀行(現三井住友銀行)、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)、米国大和投資顧問、第一生命経済研究所などを経て2000年から現職。


     ■人物略歴

    ひらた・おりざ

     1962年東京都生まれ。国際基督教大在学中に劇団「青年団」を結成。「東京ノート」で岸田國士戯曲賞。鳩山政権で内閣官房参与。大阪大特任教授など。近著に「下り坂をそろそろと下る」(講談社現代新書)。

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