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今週の本棚

角田光代・評 『子規の音』=森まゆみ・著

 (新潮社・2268円)

生きることを味わい尽くすいのち

 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺。私が知っている正岡子規の俳句はこれだけ。つまり、なんにも知らないということだ。なんにも知らないのに、つい、この『子規の音』を手に取った。読みはじめるやいなや、強力に引きこまれてむさぼり読んだ。

 泣き虫で弱虫な子どもは十一歳で五言絶句を作り、十二歳で雑誌を編集する。旧制中学で生涯の友となる四人を得て、十六歳で故郷松山から東京へとやってくる。東京では数え切れない引っ越しをくり返し、共立学校へ、大学予備門(第一高等中学校)へ通う。背景となる東京の風景、社会事情、友人・恩師・知人たちの背景までも本書は描く。ものすごい密度と情報量である。子規と交友のあった人たちだけでも、ひとりひとり評伝がすでに書かれている人物がほとんどだ。なんだかすごい時代だったんだなと、得体の知れない熱が伝わってくる。夭折(ようせつ)した天才、米山保三郎、漱石になる以前の青年金之助、同級生の山田美妙、二級下の後輩、勝田(しょうだ)主計(かずえ)、二十歳の年上の弟子、内藤鳴雪……子規の周囲にあまりにも多くの人が登場し、そのそれぞれに興味深いエピソードが紹介されているものだから、ちょっと道に迷ってしまいそうになるが、真ん中には子規という大きな目印がある。

 それにしてもなんだか変な人……、と思う。東京に出てきて数年で、こんなにも多くの人たちと出会い、交友…

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