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社説

転機迎える象徴天皇制 国民との共同作業は続く

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 天皇陛下の退位を実現する皇室典範特例法が成立した。最後の退位は200年前にさかのぼる。天皇制の転換点といえよう。1年半後にも平成に次ぐ新たな時代の幕が開く。

 陛下が皇太子のときに読まれた本に福沢諭吉の「帝室論」がある。教育担当の小泉信三・元慶応義塾長が共に音読したと明かしている。

 明治憲法制定前に記された論説集は皇室を政争の外に置き「日本民心融和の中心」と位置付けた。国民の中の天皇という「先見」に着目した小泉氏が世継ぎ教育の教本にした。

 天皇の地位は明治の「統治権の総攬(そうらん)者」から敗戦を経て「日本国民統合の象徴」となった。国民主権における天皇の役割とは何か。その在り方を陛下は早くから意識していた。

 昨年8月のおことばで「常に国民と共にある自覚」を持つことが「象徴」の役割を果たす心構えになると話した。国民に向き合う陛下の真摯(しんし)な姿勢がにじんでいる。

生身の人間が担う現実

 終戦直後、天皇の戦争責任に絡めた退位論があった。その後、皇室典範を巡っても議論されたが、歴史的な政争の教訓から恣意(しい)的、強制的退位を避けるために見送られ、終身在位制は維持された。

 退位の実現は憲政史上初となり、天皇制は新段階に入る。特例法の成立は退席した自由党を除く全会一致だった。

 公務に真剣に取り組んだ陛下への共感が、国会の総意を生み出したといえるだろう。

 陛下は、阪神や東日本の大震災など大災害時には現地を訪れ被災者の手を握りひざを接して励ました。戦争の深い傷にも思いを向け、パラオをはじめ戦跡慰霊の旅を続けた。

 高齢化が進む社会情勢の変化もある。平均寿命が80歳を超える長寿社会での多様な生き方は、終身在位制との両立を難しくしていた。

 陛下はおことばで体力の衰えからの「制約」に触れ、「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないか」という不安を率直に認めた。

 生身の人間であれば高齢に伴い一線を退くことがある。象徴の役割を懸命に果たそうとすれば、やがて肉体的に限界を迎えるのは自然なことだ。もともと象徴天皇制に内在していた問題であった。

 国民にとって天皇とは何か。この1年近い議論は当たり前のように社会に根付いた象徴天皇制の現実を直視し、陛下と国民が認識を共有する作業だったといえよう。

 「象徴」の姿が、ときの天皇の個性や社会情勢に応じて変化するのは当然だろう。天皇と国民が時代に即して議論をしていくべきだ。

 この間、天皇観の違いも鮮明になった。政府の有識者会議では「宮中で祈ってくだされば十分だ」という意見があった。政府は当初、退位を認めず今の制度にある摂政の活用で対応できないかと動いた。

皇位の安定的な継承を

 退位は自然とする多くの国民と、抵抗する保守強硬派との溝は大きい。公務の在り方を含め象徴天皇制の議論は十分には深まらなかった。

 退位の問題は皇位の安定継承と不可分だ。退位が実現すれば皇太子が不在となり、子世代の継承者は秋篠宮夫妻の長男悠仁(ひさひと)さま一人となる。

 国会は安定的な皇位継承や皇族減少対策の検討を政府に求めると決議した。女性宮家創設は具体的な対策として早急に検討すべきだろう。

 保守派には皇位が男系で継がれた伝統を継承するため、戦後に皇籍を離れた旧宮家を復活させる案がある。だが、一般国民になって70年になり、皇室とは縁遠い存在だ。

 男系の血筋といっても、今の陛下と共通の祖先は約600年前にさかのぼる。とても国民の理解が得られるとは思えない。

 女性や女系天皇を認めるべきだという主張もある。男系の伝統は絶たれるが、皇室に生まれ育った女性皇族やその子どもに皇位継承資格を与えるものだ。

 男女平等などの時代的背景や安定的な皇位継承という点で現実的な対応だと賛同する意見は多い。いずれにしても、将来の皇室の在り方をどう描くかの議論が欠かせない。

 今後は、元号の制定、退位や即位に伴う儀式の準備が始まる。首相官邸と宮内庁が意思疎通し、円滑な皇位継承に万全を期してほしい。

 天皇制の将来をどう描くのか。特例法成立後も皇室と国民との共同作業は続いていく。

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