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<記者の目>男性不妊症、理解進まず=酒井祥宏(東京社会部)

夫の不妊症と妻の不育症を乗り越え、新たな命を授かったカップル=関東地方で、酒井祥宏撮影

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恐れず、まず検査して

 子どもがほしくてもできない不妊。その原因の約半分は男性にあるという。男性の100人に1人が正常な精子が全く見当たらない「無精子症」と言う専門医もいるほど、男性不妊症は実は身近な問題だ。私は夫婦で初期の不妊治療を受けた。その経験を元に取材を進める中、社会の理解が進んでいないと痛感した。

 男性不妊症は、十分に勃起しない勃起障害(ED)や射精がうまくできないなどの「性機能障害」、無精子症など正常な精子がうまくつくれない「造精機能低下」がある。

 私は7年前に結婚したが、2年以上子どもができなかった。インターネットで検索したり、知人に聞いたりして不妊治療の情報を集めて初めて、男性の不妊症があると知った。「もしかしたら自分も」と不安に襲われ、泌尿器科で精液検査を受けた。結果が出る日は「無精子症でも手術で精子を採取すれば子どもができる可能性がある」と自分に言い聞かせながら、病院へ急いだ。

 異常は確認されなかった。妻は私の姿を見て不妊クリニックで検査を受けることを決めた。妻も異常はなく、医師に相談し、排卵周期に合わせる「タイミング療法」を始めた。不妊治療では最初のステップにあたるこの療法でも、仕事に影響することがある。治療していることを打ち明けると、上司や同僚は出張日程を変更するなど配慮してくれ、治療を始めて約2年で自然妊娠で長男を授かることができた。

 日本生殖医学会によると、潜在的な男性不妊症患者は全国で46万人に上るとされる。私はたまたま不妊症ではなかったが、男性の不妊症は決して特異なケースではない。

 国は昨年1月、無精子症などの男性の精巣などから精子を採取する手術の費用を、1回につき15万円まで最大6回助成する制度を始めた。これを受け、助成の窓口となっている都道府県と政令市、中核市計114自治体(昨年末時点)にアンケートしたところ、多くの担当者から「自分が原因と考えていない男性が多く、女性だけが治療を繰り返している。男性不妊症は社会に浸透していない」との声が寄せられた。

「原因は女性」 誤った思い込み

 助成については、すべての自治体がホームページで触れている。中には、婚姻届の受付時や成人式の際にも妊娠と不妊をテーマにした漫画を配布している埼玉県のように、啓発に力を入れているところもある。それでも理解が広がらないのは、なぜか。

 一番の要因は、私がそうだったように「不妊の原因は女性」という誤った思い込みだ。約7年間、不妊治療をした関東地方のある男性(39)も「自分に原因があるとは思いも及ばなかった」と話す。この男性は妻(38)に求められて検査を受け、正常な精子が少ないと判明。精巣に静脈瘤(りゅう)が見つかり手術した。流産や死産を繰り返す妻の「不育症」も乗り越え、3月に長男が生まれた。

 この男性も検査結果を知った時は「男としての力が失われているとショックを受けた」という。傷つくのが怖くて、検査に二の足を踏む人も多いだろう。「自分は違う」と信じる気持ちも理解できるが、男性は「原因が分かれば夫婦で頑張れる」と力を込める。

治療費に課題 行政が助成も

 ただ、治療には課題も多い。無精子症の手術を受け、顕微授精もすれば治療の初期費用で100万円以上になるという。男性不妊症の専門医は全国で51人しかおらず、関東や近畿圏に集中しているため、地方在住者は通院費や滞在費もいる。取材した長崎県の30代夫婦は5年間で1000万円近くを費やした。通院や手術が仕事に影響する場合もあり、職場など周囲の理解も欠かせない。

 行政の支援は少しずつ進んでいる。アンケートに回答した113自治体のうち18%が独自の助成制度を設けている。精液の検査費を助成する自治体もある。厚生労働省によると、昨年7月現在で65の都道府県や政令市、中核市に、医師や臨床心理士などによる相談窓口があり、土日に男性向けセミナーを開くところも出てきた。「男性不妊症を含む不妊治療について、高校や大学などで知識と理解を広めることができないか」とある担当者は提案する。

 夫が無精子症の40代女性の言葉が印象に残っている。「夫は夫婦2人で過ごしていこうと言って嫌がったが、説得して治療し、子どもを授かった。女性はいつまでも妊娠できるわけではない」

 日本生殖医学会生殖医療専門医の小宮顕・千葉大大学院准教授(泌尿器科学)は「不妊治療の効果は高齢になるほど低下する。女性が調べた後に男性が検査するのは時間の無駄遣いとなる。原因不明で有効な治療も難しい男性不妊症のケースもあるが、男女両方が協力して同時に取り組むことが重要だ」と話す。

 子どもを望みながら、まだ検査を受けていない男性に伝えたい。傷つくことを恐れず、過信せず、一歩踏み出してほしい、と。男性不妊症への理解が広まり、治療に取り組むカップルを快くサポートできる社会になるよう、この問題を取材していきたいと思っている。

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