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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『卵を産めない郭公』『僕を作った66枚のレコード』ほか

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今週の新刊

◆『卵を産めない郭公』ジョン・ニコルズ/著(新潮文庫/税別670円)

 「このできそこないの、根性なしのへこたれ野郎の、嘘つき卵産みマンモスの息子みたいなくそったれ」と、悪態をつくのが、『卵を産めない郭公』のヒロイン・プーキー。ジョン・ニコルズがデビュー作として発表した小説を、村上春樹が新しく訳し直した。

 何しろ風変わりな小説である。時代は60年代前半。まだベトナム戦争もロックもドラッグも本格化しない、アメリカ東部の名門カレッジで、彼は彼女と知り合った。調子っぱずれなプーキーに、内気な青年ジェリーは恋をする。

 ただし、ロマンチックな恋愛小説の描写もお膳立てもない。ひたすらプーキーのマシンガンのように繰り出されるおしゃべりに、つきあわされることになる。二人で過ごすせっかくの一夜も、プーキーは肌がウルシにかぶれたと言い出すのだ。……まったくなあ。

 饒舌(じょうぜつ)の果てに、透明な切なさが残る、やっぱりこれは優れた青春小説だ。巻末に付す、村上と柴田元幸との解説対談も読ませます。

◆『僕を作った66枚のレコード』松村雄策・著(小学館/税別2000円)

 ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ』発売50周年を記念し、記念エディションが発売された。すでに元版を所持する60~70代のファンも買わずに済ませられない。ある人はこれを「オヤジ狩りだ!」と叫んだ。

 同じ渦中にあるのが、元『ロッキング・オン』編集者で、ミュージシャンの松村雄策。1951年生まれ。ロックに捧(ささ)げた半生を、『僕を作った66枚のレコード』で回想する。66枚中、7枚がビートルズときている。

 「その全盛期に意識して創ったラスト・アルバムが、もっとも優れた一枚でなかったとしたら、世界に名盤は存在しない」と言うのは「アビー・ロード」。そのほか、ドアーズ、ローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイ、ディープ・パープル……と噴出するロック愛が止まらない。

 高3の秋に退学になった話など、時折挟み込まれる、若き日の著者自身の姿も興味深い。本書もまた「オヤジ狩り」だ。

◆『旅する心のつくりかた』石川文洋・著(SUN POST/税別1500円)

 ベトナム戦争の戦火の下、何人かの日本人カメラマンが従軍し、命を落とした者もいる。20代の石川文洋(ぶんよう)もまた、カメラを首からぶら下げ、おびただしい死と隣り合わせ、シャッターを切った。『旅する心のつくりかた』で、ベトナムほか世界の戦場を見てきた体験を語る。闇の待ち伏せ、飛び交う砲弾、そしてマラリア。それでも木陰で本を読んだという。「戦争に正義なんてないのです」と言う一方で、沖縄県人らしく「なんくるないさー」と行動する。もうすぐ80歳のステキな人生。

◆『チャップリン』大野裕之・著(中公文庫/税別920円)

 すでに多くのことが語り尽くされた感のある『チャップリン』。しかし大野裕之は、膨大なNGフィルムを閲覧し、さらに新資料を掘り出して、ここに新しい喜劇王の像を描き出した。不寛容と憎悪の最悪な時代に、彼がフィルムを通して訴えたかったこととは何か? そのメッセージは、今の世こそ深く響く。また、貴重な写真図版が惜しげもなく掲載され、ページをめくる手も楽しい。相当な日本びいき(愛用のステッキは日本製)であったことも、本書で初めて知り、うれしかった。

◆『大予言』吉見俊哉・著(集英社新書/税別840円)

 本当にオリンピックなど必要なのか。北朝鮮の脅威、少子高齢化、格差拡大、度重なる大災害に原発事故と、バブル崩壊後、日本は未来が見えなくなった。吉見俊哉『大予言』は、1845年から2020年までを「25年単位」という尺度を採用することで、未来を提示する。それは「団塊」「オタク」「新人類」「失われた」と、「世代」とも対応。同時に世界史も25年単位で、人口転換や経済成長といった視点からも構造的に読み取っていく。壮大な試みが提示する、明日はどっちだ!

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年6月25日号より>

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