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<記者の目>雅子さま 広がる共感=西田真季子(生活報道部)
生き方 重ねる女性たち
天皇陛下の退位を実現する特例法が9日、成立した。陛下の退位後、次の皇后となる雅子さまについて、連載「考・皇室 社会を映す」で、雅子さまと同世代の女性たちがどう思っているかを聞いた。
私が感じたのは「雅子さまが気になる」という女性が多いことだ。2003年から療養中という苦しい状況のなかで、なぜかくも女性たちを引きつけるのか。私自身も、皇室そのものへの関心以上に雅子さまが気になった。
それは、女性の生き方、家族のあり方が多様化し、「正解」がないなかで、雅子さまに社会のなかでもがいている自分を重ね合わせるからだと思う。雅子さまには、公務だけでなく、生き方としても雅子さまなりの「正解」を生きているという自信にあふれた姿を見せてほしいと願う。
皇太子さまと雅子さまが結婚されたのは1993年。男女雇用機会均等法が86年に施行され、雅子さまはその1年後に外務省に入省し、結婚まで仕事をしていた。皇太子ご夫妻の子どもは愛子さま一人、誕生時は皇太子さま41歳、雅子さま37歳だった。70年代後半から徐々に変化してきた家族のあり方、女性の社会進出、晩産化、少子化の全てを一家は反映していた。
なかでも自分で仕事を選び、主体的な生き方を願った雅子さまは、時代を忠実に映していた。「私自身も、自分でいい人生だったと振り返れる人生にできるよう努力したい」。93年1月、皇太子さまと並んで婚約記者会見に臨んだ雅子さまの言葉だ。プロポーズへの返答の一部というこの言葉を知って、私は強い共感を覚えた。転職など人生の時々で、私も常に自分の生き方にとって納得できる「選択」をしたいと思ってきたからだ。
雅子さまのその後が会見での言葉通りなのかは定かではない。だが、雅子さまと同じように、女性の生き方にも正解はなかなか見つからなくなった。
家族も多様化、「正解」はなく
専業主婦に加え、結婚しても仕事を続けるワーキングマザー、子どもを持たない夫婦、独身と、確かに女性の選択肢は広がった。だが、同時にそれぞれの生き方に自分だけでは解決の難しい障害があることも明らかになってきた。夫の高収入を前提とする専業主婦は、非正規社員が増え、終身雇用制が崩壊した今、なりたい女性全員がなれるわけではない。ワーキングマザーには保育所不足、仕事との両立の問題がある。
私は36歳、独身だ。毎日新聞社に入社したのが27歳と遅いため今は仕事に集中したいこと、子どもを持ちたくない事情があり、この生き方を選んだ。特に35歳になる前の数年は、周りの友人たちの結婚、出産、転職を見ながら、一つの節目と思って人に相談し、自分でいろいろと考えた。女性には出産可能な年齢に限りがある。子どもを持たずにいて一生後悔しないのか、そのためには今は何を重視して生きるべきか……。慎重に考え、今の生活に至っている。
それでも、周囲にはさまざまな人がいる。「何で結婚しないの?」と聞かれるくらいは、何とも思わない。だが、「結婚に興味が無くて」と私が答えると、結婚の素晴らしさを力説されたり、結婚はみんながしたいものだと決めてかかって「のんびりしてちゃダメよ」と言われたりすることもある。ネット掲示板で「少子化を加速させている」などと、子どものいる女性からの書き込みを見るたび、しっかり決めたはずの自分の生き方に「これで良かったんだろうか」と迷いを持ってしまう。
社会変化に応じ皇室も変わる
雅子さまと「迷う女性」は重なる部分もあるが、違う部分もある。今の世代は確実に変わっている。何事も仕事優先だった「男女雇用機会均等法第1世代」から、仕事も会社でのポジションも自分の生き方のなかで「できる範囲で」と考えるようになった。その結果、企業が在宅勤務など女性に働きやすい制度を整えるようになった。優秀な人材を逃さないためには企業が変わる必要があったからだ。
毎日新聞社でも、女性記者が増え、育児休業から復帰して活躍する記者も多い。支局時代には、保育所にいる子どもの体調不良で、男性記者が仕事を休むこともあった。24時間動いている新聞社でも、中にいる人の感覚が変われば少しずつ変わる。
皇室が社会に応じて変化できなければ、国民との関係にどんな影響があるのか。宗教学者の山折哲雄さん(86)は「日本人が天皇制に無関心になる」と危惧する。皇室が社会の現実とあまりにもかけ離れてしまえば、皇室の危機に直結する。
療養しながら公務をこなす雅子さまの皇后像は、国民に長く親しまれた今の皇后さまとは全く同じではないかもしれない。しかし、皇室はこれまでもそうだったように、社会の変化に応じて変わることができる。
私は雅子さまには外務省時代のキャリアを生かすことも含めて、自分の生き方を貫く、自分なりの新しい皇后像を期待したい。雅子さまから、いつか「自分でいい人生を送っていると思っています」という言葉を聞きたいと思っている。