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<記者の目>加計問題で問われる公文書管理=大場弘行(東京社会部)

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「総理のご意向」と書かれた文書。前川喜平・前文科事務次官が「レク資料」と説明した 拡大
「総理のご意向」と書かれた文書。前川喜平・前文科事務次官が「レク資料」と説明した

揺らぐ民主主義の根幹

 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を巡る問題では、公文書に対する政府の姿勢も問われている。「総理のご意向」と記された核心の文書には担当課名や日付がなく、菅義偉官房長官は出所不明の「怪文書」と言い切った。しかし、中央官庁では政治家が関係する案件を記録したこの種の文書が日常的に作られ、表に出ないように巧妙に隠されていると、複数の官僚が証言する。公文書の適切な保存と公開は、国民が権力の乱用を監視するために不可欠で、民主主義の根幹だ。それが今、揺らいでいるように思えてならない。

 ことの発端は、文部科学省の職員が作成したとされる8枚の文書が明るみに出たことだった。国家戦略特区の愛媛県今治市で学園が計画した獣医学部新設に関するもので、内閣府が「総理のご意向」などと文科省に早期開学を促す内容が記載されていた。

 前川喜平・前文科事務次官によると、文書は在任中、部下から説明を受けた際に見せられた「レク資料」という。レク資料とは複雑な課題の要点を箇条書きにしたもので、部下が上司に報告する際の補足資料として使われる。

表向き存在せぬ官僚のレク資料

 私の取材に複数の現役・OB官僚が「レク資料はどの省庁でも日常的に作られている」と証言した。政治家の利害が絡むような表に出しづらい重要案件が多く含まれ、通常は担当課名や日付を書かないという。

 公文書のうち、政策立案の過程をはじめ、国の活動などを記録した文書は行政文書と呼ばれ、公文書管理法と情報公開法で「職務上作成し、組織的に用いるもの」と定義されている。該当する文書は、保存期間ごとに分類して保管し、外部から情報公開請求されたら開示の可否を検討しなければならない。

 ある官僚は「レク資料は局長、次官ら幹部の判断を仰ぐために作って、配布もするから、紛れもない行政文書。ただし、口頭説明の一部という位置付けなので、表向きは存在しないことになっている」と明かし、元官僚は「闇から闇に消える文書」と表現した。

 官僚らによると、レク資料の取り扱いには細心の注意を払うという。個人に与えられた官用パソコンで文書を作ると、複数の職員がアクセスできる「共有フォルダー」ではなく、自分しかアクセスできない個人のフォルダーに保存する。それでも不安な場合は、印字した紙を個人の机の中にしまい、電子データは消してしまう。

 こうしておけば、外部から情報公開請求が来ても、自主申告でもしなければ存在は明るみに出ない。仮に知られても、開示対象にならない「私的メモ」と言い張ることができる。法律に定められた行政文書の保存と開示の判断基準にはあいまいな部分があり、文書を作った当事者が恣意(しい)的に選別できるのが実情だ。

政策検証のため「抜け道」なくせ

 官僚らの証言を踏まえると、加計学園を巡る流出文書について、文科省が7人の幹部への簡単な聞き取りと共有フォルダーの調査だけで「存在を確認できなかった」としたのは、当然の結果だったかもしれない。さらに言えば、閣僚を経験した政治家なら、レク資料の存在と巧妙な扱い方を知っているはずだ。官僚が大臣らに説明する際にも使われているからだ。

 ある官房長官経験者は取材に「官僚から渡される文書の9割には担当課名も日付もない。菅官房長官がレク資料を『怪文書』と言ってのけたのは、官僚が表に出せないことを熟知しているからだろう」と語った。

 学校法人「森友学園」への国有地売却の交渉記録や自衛隊の南スーダンでの活動記録が「保存期間が過ぎた」との理由で極めて短期間で処分されるなど、公文書を巡る問題が相次いでいる。いずれも、国民の目にさらされると、政権にとって打撃となる可能性があるものばかりだ。

 元官僚の一人は、背景の一つとして、2014年の内閣人事局の発足で官邸が主導して幹部人事を決めるようになったことを挙げ、「政治家にとって都合の悪い文書を出せばにらまれ、官僚人生は終わってしまう。それなのに官僚が文書隠しの責任を負わされる」とこぼした。

 取材に応じた官僚たちは、文書隠しの動機に自分の身を守る「保身」があると認める一方、官用パソコンで作る文書全てを保存する決まりにしたり、保存と開示の判断に第三者の目を入れたりすべきだと話した。

 公文書管理に詳しい牧原出(いづる)・東京大教授(行政学)も「政治家の関わりが分かるレク資料のような記録がなければ本当の行政プロセスの歴史検証はできない。政治家も公開されると分かれば行政をゆがめる行為ができなくなる」と指摘し、公表の必要性を訴える。

 文科省は確認できなかったとした流出文書の追加調査を進めてきた。文書の存否だけでなく「秘密」にしてきたレク資料の実態を明らかにすべきだ。それが、今の制度の抜け道をなくし、公文書管理のあり方を正すきっかけになる。

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