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Listening

<そこが聞きたい>天体の地球衝突 宇宙航空研究開発機構准教授・吉川真氏

吉川真氏=宮本明登撮影

夢物語じゃない、対策急ごう

 宇宙から飛来した天体が地球に衝突する--。映画や小説の話と思いがちだが、過去には何度も天体が地球に衝突してきた。事前に備えられることはあるのか。今年5月には天体衝突に関する国際会議が東京で開かれた。会議で日本側責任者を務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の吉川真・准教授に聞いた。【聞き手・永山悦子、写真・宮本明登】

    --大ヒット映画「君の名は。」に彗星(すいせい)が地球に衝突する場面がありました。「天体の地球衝突なんて映画の中だけの話」と思っている人も多いと思いますが、実際はどうなのでしょう。

     天体の地球衝突は現実に起きる可能性が十分にあります。2013年にロシアで大きな被害を出したチェリャビンスク隕石(いんせき)は、直径20メートルほどのごく小さな天体が落ちてきたものです。1908年にシベリアで起きた「ツングースカ大爆発」は直径60メートルほどの小天体の衝突によると考えられます。この時には東京都の面積と同じくらいの約2000平方キロメートルの森林が焼け野原になりました。「君の名は。」に登場する彗星もこれくらいのサイズだったようです。約6550万年前の恐竜絶滅のきっかけも直径約10キロの小惑星=1=の衝突でした。夢物語とは言えません。

    --それでも、自分が天体の地球衝突に巻き込まれる確率は低そうに感じます。

     それは発生する頻度が低いためです。「ツングースカ」レベルの衝突が起きるのは数百年に1度程度です。さらに、広い地球の中で、ピンポイントに自分の住むところに落ちてくる可能性は低く感じます。しかし、衝突が起きれば非常に大きな災害になりますから、人ごとにせず、対策を練っておくことが必要です。

    --天から降ってくるものに、どう備えるのですか。

     天体の衝突は、太陽の周りを公転する地球の軌道と、天体の軌道が重なると起きる可能性があります。事前の観測で天体の軌道を正確に把握できていれば、天体が衝突する可能性の有無や、いつどこに衝突するかを計算によって知ることができます。

    --地球に近づく天体は、どんな天体ですか。

     「君の名は。」のように彗星が地球に衝突する可能性は小さく、地球に近づく軌道にある小惑星への警戒が最優先になります。これまでの観測で、地球に近づく小惑星は約1万6000個見つかっていますが、すでに発見されているものが今後100年程度の間に地球に衝突する恐れはないとされています。

     しかし、「これで心配ない」とは言えません。見つかっていない小惑星がたくさんあるからです。「ツングースカ」レベルの小惑星のうち見つかっているのは全体の数%に過ぎません。見つかっていない小惑星が地球に衝突する可能性はあります。地球に近づく天体をできるだけ多く見つけ、軌道を決定することが必要なのです。

    --衝突する可能性が分かれば、防ぎようはあるのですか。

     はい。衝突の10年以上前の早い段階で分かれば、事前に探査機を打ち上げて、小惑星に衝突させて軌道を変える試みができます。

     今年5月に世界中の天体の地球衝突に関する専門家が集まる「地球防衛会議」が日本で初めて開かれました。その際、10年後に東京に衝突する可能性が高い小惑星が見つかったという想定で、衝突を回避するシミュレーションをしました。探査機の打ち上げ計画や核使用の是非、衝突を完全に避けられない場合に海へ落とす方法の模索などを本番さながらに議論しました。衝突が避けられない場合も、事前に分かれば対象地域の住民に周知し、避難や建物を補強するなどの適切な対応を取ることによって被害を減らせます。

    --小惑星の観測体制はどうなっているのですか。

     現在の観測は欧米の天文台が中心です。日本でも岡山県井原市にある「美星スペースガードセンター」=2=が晴れているときは毎晩観測しています。天体衝突に備える日本唯一の小惑星の観測施設ですが、美星の望遠鏡は口径1メートルで欧米(2メートル級)に比べて力不足は否めません。あまり大きくないサイズの天体は、地球に衝突する直前でなければ見つけられません。米国だけでなくアジア、欧州が連携して観測することによって、いち早く軌道を特定し、衝突場所を確定して被害を最小限にするためには、アジアの観測体制の整備は欠かせません。

    --日本政府の動きは?

     残念ながら、ほとんど取り組みはありません。JAXAには天体衝突に関する部署やプロジェクトはなく、予算も国際会議に参加する程度です。関心を持つ研究者が自主的に情報収集や研究をしている状態です。米国は最も熱心で、米議会は05年に米航空宇宙局(NASA)に対し調査活動の拡大を求める議決をし、天体衝突対策の予算も確保しています。欧州宇宙機関(ESA)にも専門の部署があり、国連も観測や被害低減を検討する組織を作っています。

    --日本には、どのような貢献が期待されていますか。

     日本は小惑星探査機はやぶさで小惑星を直接、詳細に観測することに成功しました。現在は、はやぶさ2が運用中です。はやぶさ、はやぶさ2の探査対象は、いずれも地球に近づくタイプの小惑星です。小惑星の性質によって衝突回避方法も変わりますが、はやぶさによって、小さな小惑星の内部の構造がスカスカであることが分かりました。小さめの小惑星は一つの塊と考えられていたため、この結果は天体衝突の専門家を驚かせました。このような直接探査と地球からの観測は天体衝突対策の両輪といえます。

     天体の地球衝突も、一つの大きな自然災害です。一方、地震や火山とは違い、きちんと観測できれば、いつどこでどの程度の災害が起きるかを予測できます。可能性が高まった時、国としてどのように国民に周知し、対応するかを事前に決めておくことが必要でしょう。国際的な活動にも、日本は積極的に参加していくべきだと考えます。

    聞いて一言

     「天災は忘れた頃にやってくる」と言われるが、小惑星の接近については、各国が連携した事前の詳細な観測、分析をすることで予測可能だという。しかし、その恐れが高まった時、その情報をどう伝え、誰が対策を考えるか。日本では、政府でも宇宙機関でも、全く検討されていない。小惑星衝突の可能性はゼロではないのに、あまりにも心もとない。小惑星探査で世界をリードする日本が、小惑星衝突を防ぐ分野でも存在感を発揮することは、国民の直接の利益にもつながるはずだ。


     ■ことば

    1 小惑星

     主に、火星と木星の間にある直径が数メートルから数百キロの小天体。今年4月時点ですでに発見され、軌道が分かっているものは約73万個。そのうち、地球に接近し、地球に衝突する可能性のあるものが「地球接近天体」と呼ばれる。惑星になりきれなかった天体で、太陽系誕生の頃の姿が残されており、「太陽系の化石」とも言われる。

    2 美星スペースガードセンター

     望遠鏡で、地球周辺の宇宙ゴミ(使わなくなった人工衛星など)や、地球に近づく天体を専門に観測する。スペースガードは「天体の衝突から地球を守る」という意味。今年4月からJAXAの施設になったが、観測は1996年に設立されたNPO法人「日本スペースガード協会」が担う。


     ■人物略歴

    よしかわ・まこと

     1962年生まれ。東京大大学院博士課程修了。郵政省通信総合研究所などを経て98年から文部省宇宙科学研究所(現・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)。専門は天体力学。はやぶさ2ミッションマネジャー。

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