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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『わがクラシック・スターたち』『沖ノ島』ほか

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今週の新刊

◆『わがクラシック・スターたち 本音を申せば』小林信彦・著(文藝春秋/税別1800円)

 小林信彦『わがクラシック・スターたち 本音を申せば』は、『週刊文春』連載の単行本化。本書で19冊目。ラジオ、テレビ、映画、本の話題を中心に、ときとして政治に言及し、幅の広さはいつもの通りで安心して読める。

 2016年の年初め、つかこうへいの評伝を読み、1974年につかの代表作「熱海殺人事件」を観劇した記憶が甦(よみがえ)る。「とにかく、面白かった。ことに犯人役の加藤健一がズバ抜けて面白く、形容のしようのない演技だった」と言う。新しい文化的事象も、小林は鋭く正確に反応する。

 若き日からの「観るキャリア」は、随所に生きてくる。女優はニコール・キッドマンがお気に入り、クリント・イーストウッドの「ハドソン川の奇跡」の興奮、そして綾瀬はるかから筧(かけい)美和子までチェックを怠らない。

 元祖「おたく」の精神が躍動し、センスの若々しさは、80を超えた人とは思えない。井原高忠への追悼が、最後を引き締める。

◆『沖ノ島』藤原新也・著(小学館/税別1200円)

 福岡県玄界灘に浮かぶ周囲4キロの孤島が『沖ノ島』。藤原新也は、この「神坐(いま)す 海の正倉院」に上陸、撮影してできたカラー写真集は、束(つか)は薄いが、込められた思いと祈りの層は厚い。

 秘境であるため、古代祭祀(さいし)に使われた宝物約8万点が眠る島。女人禁制で、島へ入る者は、裸で海に入り、禊(みそぎ)をするのが習わしだ。むやみにストロボを焚(た)かず、自然に近い照明による写真群は、どれも色調は重い。

 どこから運ばれたか、古代の祝詞が染み付いたような岩の大きさに度肝を抜かれる。「あたかも天から降って来たかのような圧倒的な巨岩が無数にひしめき合っているのだ」と著者が書く通り。ここには、確かに人智を超えた、奥深い何かがある。古代の人々もまた、岩に神を感じたのだろう。

 足元の一葉の枯れ葉さえ、著者は見逃さない。「ひょっとしたらはじめて人の視線にさらされたのかもしれない」という思いを、読者もまた同様に抱くはずだ。

◆『ぼくの宝物絵本』穂村弘・著(河出文庫/税別740円)

 歌人でエッセイストの穂村弘『ぼくの宝物絵本』は、大人が開いて楽しい古今の絵本を、カラー図版入りで紹介する。絵本に目覚めたのは社会人になってから。仕事に追われ、ため息をつく日々に、絵本と出会った。「それは全てを忘れさせる熱湯のような〈夢〉」だった。酒井駒子『金曜日の砂糖ちゃん』を読み、「闇の深さに触れることで生の光が生まれている」と感じた。岸田衿子作・中谷千代子絵『かばくん』、藤原マキ『こんなおみせしってる?』など、大人の楽しみ方を教える。

◆『本屋稼業』波多野聖・著(ハルキ文庫/税別680円)

 宿場町のにおいを残す明治の新宿で、薪炭(しんたん)問屋の跡取りとして生まれた田辺茂一。22歳で書店経営に乗り出した。焼尽した「紀伊國屋書店」だが、彼は戦後の焼け跡で再起を誓う。波多野聖『本屋稼業』は、夜は「夜の市長」と呼ばれた遊び人・田辺と、彼を支えた実務の人・松原治の波乱に満ちた人生を描く。借金まみれでありながら、サンフランシスコに支店まで出す田辺に私利私欲はなかった。「日本の未来を紀伊國屋書店が明るくしてくれる」。本を愛する人は必読。ドラマ化希望。

◆『霊長類』井田徹治・著(岩波新書/税別1020円)

 井田徹治は、世界各地に赴き『霊長類』の研究と保護に努めてきた。「消えゆく森の番人」と副題のつく本書は、その成果をまとめる。霊長類は、現在496種、亜種まで含めると695種を数える。ところが今、その多くが絶滅の危機にある。彼らの天敵は、じつは人間。著者は、霊長類保護を考えることが、地球上で良好な環境を保全することにつながるという。オランウータンやマウンテンゴリラはおなじみだが、真っ赤な禿(は)げ頭のアカウアカリなど、珍種もカラー写真で掲載。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年7月2日号より>

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