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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 東山彰良 『僕が殺した人と僕を殺した人』

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80年代台湾の混沌を背景に深まる少年たちの謎

◆『僕が殺した人と僕を殺した人』東山彰良・著(文藝春秋/税別1600円)

 ミステリ小説でありながら、「犯人は誰か」という本来の「読む目的」が途中から霧散する。読者を目くらましにするのは、1980年代の台北を舞台にした、少年たちのままならない日々だ。

「僕が子供の頃はよく殴られていたし、ままならないことが本当にたくさんあった。主人公のユンのように、近所の家に預けられて育った子も普通にいたし、作中の、蛇が蛇店から逃げ出した事件も本当にありました」

 父は山東人、母は湖南人。5歳まで台湾で過ごす。日本語で、日本以外の国を舞台に、日本人が一人も出てこない小説を書きえた、きわめて稀有(けう)な作家だ。

「『流』は多少日本に触れていますが、今回は日本とは直接、何の関係もない。受け入れられるかどうか不安はありました」

 そう謙遜するが、舞台が台湾でもまったく違和感がないのは、路地裏で牛肉麺屋を営む夫婦の怒鳴り声や、舗道に揺れるガジュマルの濃い影、「あいつを殺していいか」とコインを投げて神仏にお伺いを立てる少年たちの妙な律義さが、束になってぶつかってくるからだろう。読んでいる間、私たちは80年代台湾の混沌(こんとん)の中にぶちこまれる。殺すのも殺されるのも治外法権になるほどのエネルギーがそこにはある。

「小説を書き始めたのは生活苦からです(笑)。2人目の子が生まれたのに博士論文が通らず、書き直しばかり。そんな頃台湾に帰り、あるミュージシャンに会ったんです。彼が自分のすべてをぶつけて夢を求めているのに自分は何もない。焦って、僕が表現するとしたら何だろうと改めて考えたら文字だった。幸い、論文の書き直しで、長い文章を書く体力は培われていました」

 文体は英語の勉強のために原書で読んだエルモア・レナードに影響を受けた。台湾と日本という二つの故郷を持つ特異なルーツが、国内にはなかった新たなハードボイルドを生む。

「家計の足しにもなり(笑)、自分自身も書くことで癒やされました。ただ、僕が癒やされようが癒やされまいが、読者にはどうでもいい。トリックの引き出しをたくさん持っているわけじゃないので、本作は誰が犯人かは決めないで書き始めました。僕も知らない犯人なら、読者にも驚いてもらえるだろうと」

 連載中から編集者の反応を見て、周囲が予想する展開とは違う展開を常に用意し、最終まで結びつけていった。それを可能にしたのは、矛盾するようだが、謎解きは二の次という東山さんのこだわりのなさだ。

「天真爛漫(らんまん)で、喧嘩(けんか)を通して仲良くなるような4人の少年たちがわずかなことで歯車を狂わせていくさま、歯車の狂ったままで30年間時が止まっていた彼らがどうやってまた生き直すかを書きたかったのかもしれません」

 語り手は「わたし」と「ぼく」。2人は何者なのか。実はそれすらどうでもいいのかもしれない。この作品において、ミステリは単に物語を動かす動力にすぎないのだから。少年たちは一心同体ともいえるような、かけがえのない季節を過ごしていた。ギャルもコンビニも出てこない、怒濤(どとう)の「国産」エンターテインメントだ。

(構成・柴崎あづさ)

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東山彰良(ひがしやま・あきら)

 1968年、台湾生まれ。2002年「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞および読者賞、15年『流』で直木賞受賞。他の著作に『ブラックライダー』『罪の終わり』など

<サンデー毎日 2017年7月2日号より>

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