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<記者の目>空港乱射45年 岡本公三容疑者=岸達也

テルアビブ空港乱射事件を起こし、イスラエル国防軍の軍事法廷に呼び出された岡本公三容疑者=1972年6月27日、UPI

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テロ根絶の道険しく

事件について語る岡本容疑者=ベイルート市内で2017年4月26日、岸達也撮影

 世界各地で市民を無差別に狙う自爆テロが吹き荒れている。そのひな型とされるのがイスラエル・テルアビブ空港乱射事件(1972年)だ。実行役の日本赤軍、岡本公三容疑者(69)に4月、レバノンの首都ベイルートで単独インタビューした。日本のメディアの取材を受けるのは異例で、これが最後かもしれないと仲介者は言った。

「自爆」の出発点、国際社会に衝撃

 事件では日本赤軍メンバーの日本人3人が自動小銃を乱射し、居合わせた旅行者ら約100人が死傷した。岡本容疑者以外の2人は自爆死したとされる。犠牲者の数もさることながら、生還を前提としない襲撃の方法が世界を震撼(しんかん)させた。ほとんど前例のない無差別の自殺型テロは強い衝撃を国際社会に与え、今のイスラム武装勢力などによる自爆テロの出発点となったとも指摘されている。

 45年前の事件にどう向き合っているのか。そして、結果的に自爆テロの種を世界中にまき散らしたことを、どう考えているのか。岡本容疑者から謝罪の言葉が聞けるかもしれない。私は心の片隅に、そんな淡い期待を抱いていた。だが「被害者への哀悼の気持ちを持っている」と語ったものの、事件については「武装闘争だった」と正当化した。

 事件の背景にはパレスチナ問題が横たわる。第二次世界大戦後のパレスチナ地域にイスラエルが建国され、もともと住んでいたパレスチナ人は難民化した。果てしない攻撃と報復の連鎖の中で、同地域にマルクス・レーニン主義政権の樹立を目指す武装組織パレスチナ解放人民戦線(PFLP)が襲撃を立案し、世界革命路線をとる日本赤軍が実行役を担った。

 テロリストである岡本容疑者について、レバノンのPFLP幹部は私の取材に「彼は英雄」と語り、「事件はテロではなく、レジスタンス(抵抗運動)だった」とした。イスラエルの占領政策を「テロだ」とする主張も、アラブ世界で受け入れられている。

「武装闘争」と事件を正当化

 当時のパレスチナ問題を含め政治的、思想的な対立に暴力をもって臨む2者の間に、共通理解や和解は簡単には生まれようもないと感じる。しかし、暴力はより強い暴力の報復、果てしない暴力の連鎖を生むのは明らかだ。なによりも、罪のない多数の市民が殺され、傷つくのは、いかなる理由でも正当化することはできない。半世紀近くを経てなお「武装闘争だった」とする岡本容疑者の主張を認めれば、悲劇は決してなくならない。テロの連鎖を断ち切る難しさ、人道主義の限界を突きつけられる思いがした。

 日本国憲法は思想信条の自由を保障するが、日本国籍を持ちながら海外で政治亡命が認められた例が少数ある。私は5年前に社会部で警視庁公安部を担当し、岡本容疑者もその一人だと知った。事件後にイスラエルで終身刑を受け収監されたが、捕虜交換で85年に出国。広さがちょうど岐阜県ほどのレバノンに政治亡命者として暮らしている。

 今、世界は無差別テロの恐怖におびえる。自爆テロを生み出したとも言える岡本容疑者の話をなんとしても聞きたいと思い、1年ほど前から取材の打診を繰り返した。私は4月下旬、ベイルートで仲介役の連絡を待ち続け、会えたのは帰国直前だった。身長160センチほど、初老の小柄な岡本容疑者はしばしの間、私をじっと眺め、無言で握手を求めてきた。肉厚な手だ。イスラエルの刑務所で統合失調症を患ったと聞いていたが、元気なようだった。

 彼は望郷の念も口にした。「日本に一度は帰りたい」。家族の話題では「父には生きている間に会いたかった」と残念がった。世界革命が実現していないこと、事件が自爆テロの原型となったとされることへの感想も聞いたが、答えは返ってこなかった。

 日本赤軍リーダーの重信房子受刑者(医療刑務所に収監中)は2001年、獄中で解散を宣言した。岡本容疑者の亡命を認めるレバノン政府も複雑な国際情勢の中にある。PFLP幹部は空港乱射事件を「歴史だ」と表現。同国で若い世代に取材すると、名前を知らないという声も聞いた。

 インタビューを終え、別れ際にもう一度、握手を求められた。日本人の私との別れを惜しむようにも見えた。「被害者への哀悼の気持ち」という最初の言葉がよみがえり、もしかしたら、岡本容疑者はずっと謝罪の言葉を胸に秘めてきたのかもしれないとも思った。今もPFLPの保護下にあり、現に、取材中も屈強なボディーガードがついていた。政治亡命者という立場では、事件について「あれは武装闘争」と公式見解を言うしかなかったのではないか。自由に物を言えず、「アラブの英雄」とはほど遠い「抑留者」のようだとも思った。

 テロは国境を越え、拡大を続けている。英国マンチェスターでは先月、コンサート会場で自爆テロがあり、子供を含む80人以上が死傷した。人々を恐怖させ、体制を動揺させるテロは「ニュースとして報じられ、完成する」とも言われる。国際テロ根絶がいかに難しいか、思い知らされる取材となった。

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