横浜市内の通所介護施設に出かけ、利用者と一緒に田植え体験をした。泥の中に手を入れる利用者に交じって自らも苗を植えた。泥まみれの手のまま、満面の笑み。女優との兼業で介護に携わるようになり、10年になる。
20代後半の出来事を今も鮮明に覚えている。大雨の中、車の運転席で友人を待っていると、両手足が不自由な男性が車の横を通り過ぎた。傘は差していたが、うまく持てずに全身ずぶぬれ。一瞬、小学校の頃の記憶がよみがえった。駅の券売機の前で戸惑うお年寄りや視覚障害者に声を掛けられない自分がいた。そのことを心の奥底でずっと悔いていた。
「子供の時と同じじゃない」。そう思った時に「乗ってください」と、声を掛けていた。車の中でその男性と会話をすると、1日2、3時間しか仕事はできないけど、電車を乗り継いで週3日ほど通勤しているという。家まで送ると、金網につかまり、体を支えながら家の中に入っていく。たどたどしい足取りだったが、その人は、しっかりと地面をとらえていた。「その方と話して『私は自分の足で立っていない』と思ったんです。当時の私…
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