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岡崎 武志・評『球道恋々』『「穴場」の喪失』ほか

今週の新刊

◆『球道恋々』木内昇・著(新潮社/税別2100円)

 プロ野球が誕生する、なんてより、もっとずっと前。時代は日露戦争後の明治39年、創設以来天下一に君臨していた第一高校野球部は、低迷にあった。猛追する私学の早稲田、慶應に屈辱の敗戦を喫し、事態は猶予ならない。

 木内昇(のぼり)『球道恋々』は、日本野球の歴史をつくった一高(のち東京大学)球児たちの奮闘を描く。窮地の彼らを救うため、同部OBの宮本銀平がコーチに招かれる。ただし、銀平はもと万年補欠。外国人コーチを擁する私学の雄に、彼らは立ち向かうのだが……。

 足尾銅山の暴動、新渡戸稲造が急先鋒(せんぽう)となる「野球害毒論」といった時代を背に、銀平と一高野球部員たちの熱気を、著者はユーモアを忘れず活写していく。「負けたら腹を斬る、なにごともその所存で臨むべき」などと、いやあ、みんな熱い、熱い。

 明治の冒険小説の大家・押川春浪が意外や野球好きで、本作でも重要な役目を果たす。こうして見ると、やっぱり野球は面白い。

◆『「穴場」の喪失』マイク・モラスキー、本村凌二/著(祥伝社新書/税別780円)

 マイク・モラスキーと本村凌二が、街、居酒屋、映画、ギャンブル、音楽、言葉、笑いと、思う存分語り合うのが『「穴場」の喪失』。読みながら、何度も、そうだよなあとうなずいた。

 たとえば、タイトルにもなった「穴場」について。かつては、個人の味覚や趣味で見つけて大事にした店が、「食べログ」「ぐるなび」などのネット情報に紹介され、ランクづけされる。「地域文化を単なる消費対象にすべきではない」とモラスキー。

 映画ヒーローを論じた章で、本村は植木等の名を挙げ、モラスキーが疑問をなげかけるとこう答える。「いや、人間が自由に生きる、気楽に生きる、それを社会や会社のなかでかなえるという意味で、強さを見せているのです」。丁々発止の中から、重要な提言や文化論が読み取れるのだ。

 街を取り上げた第五章では、「街の魅力は路地にあり」と言い、日本人の景観に対する認識に苦言を呈す。ごもっとも。

◆『ハッチとマーロウ』青山七恵・著(小学館/税別1700円)

 これはまた、何とも可愛らしい小説が生まれた。青山七恵『ハッチとマーロウ』は、双子少女の一年間の物語。ともに大晦日(みそか)生まれの二人は、11歳になった元旦に、ミステリー作家の母親から「ママは大人を卒業します!」と宣言される。ママは家事を放棄してしまい、朝も二人を起こさない。朝食の準備から洗濯、掃除と「大人になった」双子の活躍が始まった。長野の山奥の別荘地を舞台に、双子と大人たちを巻き込んで次々と起こる騒動が楽しい。挿絵の田村セツコ起用もぴったり。

◆『あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった』川崎徹・著(河出書房新社/税別2200円)

 川崎徹といえば、「ハエハエカカカ キンチョール」などのCMを制作した「鬼才」であった。『あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった』は、静かな、大人のための物語。平山は、10歳年上の妻・ユキコと南アルプスを臨む、丘の上の住宅地で暮らす。二人は共に年老い、ユキコの認知症が目立つようになった。その妻がスーパーへ行くと言ったきり、姿を消した。記憶の中に流れる「生」の時間を、かつての「鬼才」が慈しむように描く。「彼女は長い間猫に話しかけた」を収録。

◆『乗りもの紳士録』阿川弘之・著(中公文庫/税別620円)

 のちに鉄道作家となる宮脇俊三の編集者時代、一緒に組んで「鉄道」ものを出し続けたのが阿川弘之。『乗りもの紳士録』は、鉄道のほか、飛行機、船、自動車が加わる。そこへ、仲間の作家たちの乗り物話も出てくる。三島由紀夫から電話があったと思ったら、F104という自衛隊戦闘機に試乗して興奮している。「うちじゃ誰も相手をしないもんだから」と、乗り物好きの阿川に電話した。その阿川も、潜水艦に乗船。完全冷房の快適ぶりに、ちょっと不満をもらしているのがおかしい。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年7月9日増大号より>

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