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著者インタビュー 伊東潤 『城をひとつ』

民主主義が問われているいま、北条家を描く意味がある

◆『城をひとつ』伊東潤・著(新潮社/税別1600円)

 「城をひとつ、お取りすればよろしいか」。大藤信基(だいとうのぶもと)はそう言ってのけた。その言葉通り、信基は敵の内部に入り込み、武将を巧みに誘導して、味方に勝利をもたらす。本書は、信基とその一族による六つの戦いを描く短編集である。

「戦国時代を舞台にする小説のハイライトは、ふつう合戦ですよね。でも、今回は合戦の描写を封印して、その前の『下ごしらえ』に重点を置きました。つまり調略戦です。相手の性格を読んで、こちらの思う方向に乗せていくんです」

 作中にも「敵を攻めるのではない。敵の心を攻めるのだ」というセリフがある。

「『いよいよ切所(せっしょ)だ』とも言っていますね。この一点を乗り越えればという勝負どころがあるんです。それに気づいて前に出ることができる武将は、やはり強いんです」

 しかし、直接戦闘に参加しない大藤一族は、あくまでも裏の存在だ。彼らは論功行賞にも恵まれない。

「それが不満で、実戦部隊を編成して実戦に参加した四代目の政信は、三方ケ原の合戦で討ち死にします。それまでの路線をガラッと変えると失敗するというのは、現代の企業でもよく起こることですね」

 伊東さんは外資系企業に長らく勤めていたが、2002年に初めて小説を書く。

「それまでほとんど小説を読んでいなかったんです。むしろ、ロックや映画のほうが好きでした。ある時、山中城(静岡県三島市)の美しさに魅せられたことがきっかけで、歴史小説を書きはじめました」

 山中城を支配したのは、北条家だ。伊東さんはデビュー以来、北条家を好んで取り上げてきた。大藤一族も北条家に仕えた。

「有名な北条早雲を除けば、北条家を書いた小説がなかったことが大きな理由でした。それと、北条家は『祿壽應穩(ろくじゅおうおん)』という理想を掲げ、民に優しい政治を行いました。民主主義が問われているいま、北条家を描くのには意味があると思ったんです」

 六つの戦いはいずれも実際に行われたものだ。その史実を変えずに、物語をつくるのは難しかったと伊東さんは言う。

「史料に基づいて、そこにいてはいけない人は出しませんでした。大変でしたが、うまくいったと思います」

 現在、伊東さんは本誌で「アンフィニッシュト」を連載中。これは、1970年のよど号ハイジャック事件をモデルにした小説だ。

「若者が燃えていた全学連の時代を、ミステリ仕掛けで描いています。そういえば、この作品でも主人公が潜入しますね(笑)。現代を舞台にしていますが、戦後も70年を過ぎていますから、歴史小説として書けると思ったんです。これからクライマックスに向かうので、期待していてください」

 武将と同じように、小説家の仕事もまた国盗(と)りゲームなのだと、伊東さんは言う。自分にしか書けないテリトリーを守りながら、次第にそれを広げていく。

 「新しいものを追求していきたい」と静かに語る伊東さんが、野心を秘めた戦国武将の面影に重なった。

(構成・南陀楼綾繁)

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伊東潤(いとう・じゅん)

 1960年、神奈川県生まれ。外資系企業勤務を経て、文筆業に転じる。『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞を、『巨鯨の海』で山田風太郎賞を受賞。著書に『武田家滅亡』『黎明に起つ』『峠越え』『江戸を造った男』など

<サンデー毎日 2017年7月9日増大号より>

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