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「自立支援」重点化 「要介護度」指標化懸念も

 安倍晋三首相は昨年11月、成長戦略を議論する「未来投資会議」で、介護保険制度について「パラダイムシフトを起こす。介護が要らない状態までの回復を目指す」として自立支援を中心とした制度への転換を宣言した。要介護者の減少を目指し、2018年度改定では要介護者の状態を改善した事業者を評価する仕組みが検討されている。しかし「要介護度」を改善の指標とすることについては懸念の声も強い。【藤沢美由紀】

 広々とした明るい部屋に並ぶ、6種類のトレーニングマシン。東京都渋谷区の特別養護老人ホーム「杜の風・上原」では、入所者の状態に合わせ、理学療法士の指導の下「パワーリハビリテーション」に取り組んでいる。目的は普段使わない筋肉を動かすこと。トレーニングに励む要介護4の男性(88)は「楽しい」と笑顔を見せた。1カ月前の入所時は起き上がることもできなかったが、今は職員が背中を支え、歩行器を使えば歩けるようになった。

 同施設は「自立支援ケア」を掲げ、未来投資会議でも取り組みを説明した。オムツを使わずにトイレでの排せつを基本とし、しっかりした食事と水分摂取、歩行の実践で「介護を受ける前の状態に戻す」ことを目指す。入所後に要介護認定を更新した63人(15年2月時点)のうち、半数近い30人の要介護度が改善。24人は入所時の要介護度を維持していた。

 こうした取り組みはまだ一般的ではないが、東京都品川区など一部の自治体では、要介護度が改善した場合、施設に奨励金を出す制度が始まっている。同区は13年度から実施。ある特養の施設長は「車いすから食堂のいすに移って食べてもらうなど、日常の動きを意識して変えるよう心がけている」と話すが、要介護度が改善した入所者は1割未満。「トイレに行きたいタイミングに合わせて連れて行けたらオムツは不要かもしれないが、現実には難しい。人手さえあれば」とこぼす。

 「杜の風」の斉藤貴也施設長は、人手について「入所者が自立すれば、職員の手はその分かからなくなる」と話す。一方で制度上の課題も指摘する。国は15年度から特養の入所条件を原則として要介護3以上とした。「杜の風」では2以下に改善した場合でも「特例」として入所を継続する場合もあるが、斉藤施設長は「要介護状態が改善したら退所というルールは廃止すべきではないか。特養への入所は本人の状態だけでなく家族の事情もある」と話す。

 また、介護報酬上、状態の改善をどう評価するかが大きな問題だ。全国老人福祉施設協議会は、要介護度を改善の指標とする流れに危機感を抱き、厚生労働相に意見書を提出した。瀬戸雅嗣理事・統括幹事は「要介護度だけで評価すれば、改善を見込めない人が入所を断られることもありうる。将来的には改善しなければぺナルティーを科される恐れもある。給付費の抑制が狙いではないか」と話し、議論の行方を注視する。

政府「データベースで裏付け」

 長年、自立支援介護を提唱してきた竹内孝仁国際医療福祉大大学院教授(高齢者介護学)は「本人の尊厳が守られるだけでなく、家族の負担が減ることで介護離職を減らし、介護職員の士気や質も高まる」と話し、現場への浸透を図るには「教育や意識を変える努力も必要」と指摘する。

 しかし現状の介護報酬体系では、要介護度は重いほうが報酬が多く、経営上、自立支援介護の動機づけは乏しい。

 政府は5月に示した新しい成長戦略で、介護サービス利用者の状態改善に効果のある自立支援を「評価する」と明記。介護報酬は18年度から見直すが、改善の効果測定には科学的裏付けが必要として「データベースを構築し20年度の本格運用開始を目指す」としている。

 厚労省の鈴木健彦・老人保健課長は「要介護度は(改善の)一つの目安だが、さまざまな検討が必要。できることは自分でするという自立を目指し、それが伝わる報酬にしたい」と話す。

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