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社説 核兵器禁止条約採択へ 理想に向かう新たな道だ

 人類が到達すべき「核兵器なき世界」への大きな一歩が刻まれる。その理念と各国の努力を支持したい。

     核兵器の保有や使用を初めて法的に禁じる核兵器禁止条約がきょう国連で採択される。

     数十万人が犠牲になった広島、長崎への原爆投下から72年。「核兵器使用による被害者の受け入れがたい苦しみと被害に留意する」と明記した前文には「hibakusha」(被爆者)という表現が使われた。

     あの惨劇を繰り返さないという国際社会の強い決意が、核兵器を否定するこの条約の根幹だといえよう。

     実効性を担保できるのかという指摘もあるが、核廃絶が国際的な規範となる意味を持つ。

    拡散し深刻化した脅威

     核兵器や大量破壊を可能とする兵器を廃絶する--。世界平和の実現のために発足した国連が1946年1月の総会決議の第1号で核廃絶に言及したのは象徴的だ。

     ところが、東西冷戦下で米ソは核軍拡競争の時代に突入し、ピーク時の86年には世界の核弾頭数が7万発を超えた。人類が数十回も滅んでしまうほどの量だった。

     核戦争の恐怖から核軍縮は始まったが、これまでに弾頭数は約1万5000発に減る一方、核兵器保有国は米英仏中露の5カ国からイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮を含む9カ国に拡大した。

     90年代から本格的な開発を始め、核実験を繰り返す北朝鮮は日本にとって重大な脅威となっている。テロ組織への核兵器拡散の懸念も高まる。核を巡る状況はむしろ深刻さを増している。

     核兵器禁止条約はこのような核の不安定化への対抗策である。

     禁止対象は開発や製造、保有や配備、移譲や受領、使用もしくは使用の威嚇など広範囲に及ぶ。これらに対する援助も禁じている。

     条約の制定交渉には核保有国は参加しなかった。条約が核抑止力の核心である「使用の威嚇」も否定したことで、未締結国が後に加わる道筋は遠のいたと言えるかもしれない。

     しかし、交渉には国連加盟国の6割を超える121カ国・地域が参加し、国際社会の声だという重みがある。核保有国に核兵器の先制使用をためらわせる抑止効果があろう。

     核兵器が生む壊滅的な人道被害を強調したことが、国際世論を引きつけた。

     広島、長崎の被爆者たちの身体的、精神的苦痛は今も続いている。がんのリスクに苦しんできた人もいる。

     広島、長崎の後、核兵器が使われていないのは、極めて高い非人道性への認識が核保有国の指導者に浸透していたからだという指摘もある。

     制定の背景には、核保有国への非保有国の不満もある。

     核保有国は核拡散防止条約(NPT)の規定に従い「核軍縮交渉の義務」がある。米露は戦略核兵器の削減交渉を続けてきたが、現状は事実上進展していない。核実験全面禁止条約(CTBT)は米国が批准せず発効に至っていない。

     核保有国が果たすべき核軍縮の歩みは緩慢に過ぎる。一方で核兵器の開発や更新を続けている。

     自分たちは核兵器の近代化を進めながら、他の国は核兵器を持つべきではないという理屈に説得力があるとはとても思えない。

    残念だった日本の不在

     制定交渉には米国の同盟国である北大西洋条約機構(NATO)諸国のほとんどや、日本や韓国、豪州も参加を見送った。

     米国の核拡大抑止を意味する「核の傘」に守られる日本などには米国からの同調圧力が働いたのだろう。

     日本は94年以降、23年連続で核兵器廃絶に関する国連決議を提案し採択されてきた実績がある。

     しかも、唯一の戦争被爆国として核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任してきた。昨年は当時のオバマ米大統領の広島訪問を実現させてもいる。不参加は残念でならない。

     核保有国にとっては、その地位を認めるNPTと、それを否定する核兵器禁止条約との整合性も条約参加へのハードルになろう。

     だが、核保有国こそが偉大な国の証しという特権意識を捨て、核軍縮に真剣に取り組まなければ核兵器廃絶の道筋は見えてこない。

     核兵器禁止条約は核兵器を持つことは許されないという国際規範になる。軍事力や経済力だけでなく道義的な規範を示してこその大国だ。その転機となることを強く期待する。

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