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山岳遭難、アプリで対策

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 7月に入り、本格的な夏山シーズンが始まる。山岳遭難は例年多発しており、登山者の自衛対策は欠かせない。携帯電話・スマートフォンは遭難時の緊急連絡に有効だが、電池切れと圏外での通話不能の恐れがつきまとう。そこで登場したのが、全地球測位システム(GPS)を活用し、登山者の行動を自動的に追跡、遭難時は緊急連絡してくれるアプリケーションだ。

 ●GPSを活用

 山形と秋田の県境にそびえる日本百名山の一つ、鳥海山(標高2236メートル)。頂上付近にはまだ残雪があり、「出羽富士」の異名にふさわしい独立峰の威厳を示している。

小型の電波発信端末(左下)を取り付けるキャプテン山形の石山薫さん=秋田県由利本荘市で 拡大
小型の電波発信端末(左下)を取り付けるキャプテン山形の石山薫さん=秋田県由利本荘市で

 標高約1200メートル地点にある矢島口(秋田県由利本荘市)の登山ルート沿いで、小さな木製の箱が取り付けられた看板を見つけた。「入山管理アプリ OWL」。これが登山者の安心・安全をサポートしてくれるという。

 「OWL(オウル=フクロウ)」は山形市の第三セクター「キャプテン山形」が開発した山岳遭難対策用アプリ。縦横10センチ、厚さ2・5センチほどの木製の箱の中には電波発信端末(BLE端末)が入っている。端末が信号を発信すると、オウルをダウンロードしたスマホが受信。その後は30分ごとに所有者の位置情報が同社のサーバーに送信されるというGPS活用の追跡システムだ。鳥海山の九つある登山口すべてに端末が設置されている。

入山管理アプリ「OWL」。画面下のSOSボタンを押すと、事前に登録した緊急連絡先に助けを求めるメールが届く=山形市本町のキャプテン山形で 拡大
入山管理アプリ「OWL」。画面下のSOSボタンを押すと、事前に登録した緊急連絡先に助けを求めるメールが届く=山形市本町のキャプテン山形で

 記者が矢島口の端末に近づくと、スマホに事前にダウンロードしておいたアプリが自動的に起動し、画面に「登山口」の表示が出た。端末の乾電池を交換しにきたキャプテン山形の石山薫さん(48)は「GPSによる追跡が始まりました。遭難の危険を軽減できましたよ」と太鼓判を押した。

 オウルの初期バージョンは2016年6月に完成した。登山愛好家の裾野が広がる一方で、登山ルート、スケジュール、メンバーなどを記載した「入山届」を警察や登山ポストに事前提出することを怠るケースも散見されるようになった。「誰もが持っている携帯・スマホの利便性を生かせば事前提出が増えるのではないか」と考えついたのが、鳥海山限定だが、ネットから入山届が提出できる機能を持ち、山岳保険への加入申し込みもできるオウルだった。

 そして6月25日の鳥海山の山開きに合わせ、新たにオウルに加わった機能が、GPS活用の追跡システムだ。利用するには当然、入山届の事前提出は必要だ。

 ●SOS一押しで

 登山者は現在地を把握してもらえるだけではない。非常時に画面上の「SOS」のマークをタップすると、事前登録した連絡先に緊急メールが送信される。音声による通報と異なり、遭難者に必要な動作は画面の一押しだけだ。

 もちろん、電池切れ・圏外通話不能などのトラブルは避けられないため、一定の下山予定時間を過ぎても下山しない場合、同社のサーバーから緊急メールが指定先に自動送信されるようになっている。家族らは何らかのトラブル発生を認知できる。同社は17年10月まで実証実験を続ける予定。「鳥海山のあらゆる場所で電波の強弱などを調べ、機能強化の参考にしたい」という。将来的には他の山岳への導入を目指している。

 ●遭難件数が増加

 高齢者を中心とした登山ブームの半面、山岳遭難発生件数は増加傾向にある。

 警察庁によると、全国の山岳遭難件数は統計の残っている1961年以降、15年に過去最多の2508件を記録。16年には減少したが、それでも過去2番目の2495件。遭難者数は計2929人(前年比114人減)に上り、死者・行方不明者は319人(同16人減)だった。

 16年の遭難件数のうち、76・4%が遭難現場から携帯電話・スマホなどを使って救助を要請している。警察庁地域課は「要請手段としては有効であり、今後も頼りになる。ただし、多くの山岳では通話エリアが限られているうえ、バッテリーの残量に注意する点に変わりはない」と話す。過信は禁物だ。

 一方で、携帯電話・スマホを活用した山岳遭難対策は進化を続けている。システム開発会社「FES」(東京都新宿区)はBLE端末の代わりに二次元コードを活用。登山ルートに設置し、登山者が読み込むと位置情報などが同社のサーバーに送られる。

 14年の御嶽山の噴火以来、入山した登山者数の把握は課題の一つになっている。自治体から同社への相談も相次いでいるという。山本宗明社長は「入山届を確認していたのでは貴重な捜索の時間を失いかねない。携帯電話・スマホを1人1台以上持つ時代。被害最小化のため活用しない手はない」と強調する。

 富士山では専用の電波発信端末を登山者に貸与し、位置情報を確認する実証実験が進んでいる。建設コンサルタント業の日本工営(東京都千代田区)などが推進。電波を発信するだけのシンプルな機能に特化することで、電池切れの可能性が格段に低くなっている。【松尾知典】

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