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平松 洋子・評『星の子』今村夏子・著

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無垢(むく)な視点が炙(あぶ)り出す物語の奥の残酷さ

◆『星の子』今村夏子・著(朝日新聞出版/税別1400円)

 今村夏子の小説は怖い。どうしようもない痛みを掌(てのひら)にそっと置かれて、言葉もなく立ちすくむ。そんな静かな怖さ。

 前二作『こちらあみ子』『あひる』、いずれにも同様の感覚をおぼえたが、このたびの芥川賞候補作『星の子』にもぞくりとさせられる。物語の核心に潜む、残酷さや怖ろしさ。それらを守り通そうとするかのように、全編にきわめて純度の高い無垢(むく)が張り巡らされている。残酷さと無垢。物語が抱える落差にはしごを外されて戸惑うのだが、虚(うつ)ろにぶらつく足の下を覗(のぞ)いてみたくなる。

 生まれつき体の弱かったちひろ。専業主婦の母。損害保険会社に勤める父。五歳年上の姉、まさみ。どこにでもいる平凡な家族のはずだった。ところが、ちひろが中学三年になったいま、一家のようすは、世間の“常識”から大きくズレている。両親は「あやしい宗教」にのめりこむ毎日で、それを嫌ってきた姉は、高校一年のとき、とうとう家を飛び出してしまう。いびつな暮らしぶりを語るちひろの眼は、しかし、あくまでも心優しく質朴…

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