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中村桂子・評 『ホモ ピクトル ムジカーリス-アートの進化史』=岩田誠・著

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 (中山書店・3024円)

「我」と「汝」 関係の表現が芸術

 神経内科医である著者は「アートとはなにか」という問いへの答えを、脳機能を基盤とする神経心理学に求めていたが、退職して孫の言葉と描画の発達を観察し、進化史で考えるようになった。専門と日常を一体化して謎を解く科学者のありようとして興味深い。

 観察は二足歩行から始まる。這(は)い這い(ヒト特有の移動)、つかまり立ち、一人立ち、歩行の各過程で足底を楊子で擦った時の屈曲反応の変化から、歩行に関わる神経機構の強固さを確かめる。赤ちゃんで誰もが試せるこの反応は、類人猿にもある。森林では二足歩行は不要ということだろう。

 二足歩行と連動した言葉の獲得の時期から、人間特有の活動が始まる。コミュニケーションの手段は、鳥の鳴き声など他の生物にもあるが、それらは眼前のでき事への行動を惹起(じゃっき)する操作的コミュニケーションである。言語は指示的コミュニケーションであり、そこから教育、装身具の作成(自己を客観的に示す)、死後の世界という人間独自の世界が生まれたと著者は言う。ネアンデルタール人には、われわれのような分節性言…

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