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トップに聞く 少人数・個性重視の教育 成蹊大学・北川浩学長

北川浩氏

 東京都武蔵野市吉祥寺にケヤキ並木の美しいキャンパスを構え、2012年に創立100周年を迎えた成蹊学園。中でも少人数教育を伝統とする成蹊大学の北川浩学長(57)は今年、就任2年目を迎え、学内のさまざまな教育改革を推進している。学部を超えた融合教育や充実したキャリア支援、学内グローバル化など、次世代を担う人材育成の新しい取り組みについて聞いた。【清水隆明】

     ◆信頼できる人作り

    専門分野掘り下げ

     --これからの大学教育には、何が重要と考えていますか。

     「第4次産業革命」の急進によって、中学・高校生が社会人になるころには、今とは全く違う社会になっているでしょう。人間が今までコツコツ積み上げてきた知識やスキルの経済的価値を、一瞬にして消滅させるテクノロジーが現れるからです。例えば、50年前はそろばんの達人がすぐに金融機関に就職できたり高給がもらえたりしましたが、電卓が広がるに従い、そういう利点が消滅していったようなことです。しかも、テクノロジーが世界に広がるスピードが昔より格段に速くなっています。やがて、AI(人工知能)、ロボット、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータの4大テクノロジーが経済活動の基盤になっていくでしょう。

     そういう世界で生きていく学生たちに、どんな教育を提供すればいいでしょうか。今ある職業の49%はAIが代行するといわれますが、どんなに4大テクノロジーがモノやサービスを生産しても、どこかで必ず人間が介在するはずです。例えばAIの医療システムに検査データを入れれば病名と処方箋はすぐ分かりますが、診断結果を患者に告げるのは最終的には医者の役割でしょう。売れる歌の作詞作曲はAIにできても、歌うのは歌手です。うける漫才の台本はAIが書いても、演じるのは芸人です。つまり、技術と消費者をつなぐヒューマンスキルの部分を担う人材が必要になります。ただ単に資格を取ったり留学したりした事実には価値がなくなりますが、そのプロセスや努力から得られるものは多くあります。考えること、調べることを徹底的に繰り返し、ディシプリン(専門分野)を掘り下げることで思考力、判断力、洞察力は身につきます。その力を使って課題解決法を探り、判断し、分かりやすく説明して相手と心を通わせる能力、つまり人間としての「信頼性」です。教育の原点でもある「信頼できる人間」をどう育てるかが重要になります。

    産学「知のコラボ」

     --そのために取り組んでいることを教えてください。

     深く考えることで初めて思考力、判断力、洞察力は得られます。ただ、それを活用しての課題解決や分かりやすい説明をするには別のトレーニングが必要です。それが知のコラボです。具体化したのが「丸の内ビジネス研修」(MBT)です。

     4年前から始めた産学連携の人材育成プログラムで、歴史的にかかわりの深い三菱グループの協力で実現しました。3年生と大学院1年生を対象に、志願書、面接により約30人を選抜し、全学部混合の6、7人のグループを編成します。春から夏にかけて協力企業の提供課題に取り組み、夏休み期間にインターンシップへ参加。秋の個人発表会を経て、締めくくりに東京都千代田区・丸の内の会場で成果を発表します。8カ月間、異分野の人と何度も議論やプレゼンテーションを重ねる大変なプログラムですが、相乗効果も成長性も非常に高いです。協力企業の満足度も高く、年々その数は増えています。この教育手法を学内全体に広げたい。本学は教員と学生の距離が近く、別のゼミと合同でプログラムや企画を立てることが比較的容易です。その風土・伝統が今、有効に機能し始めています。

     --キャリア支援にも力を入れていると伺いました。

     大きくは2点あります。本学は教員と学生だけでなく、職員と学生の距離も近いため、その特徴を生かして1年生時から学生と職員が1対1で就職や進路について希望や悩みの相談を受ける個別面談方式を取り入れています。

     もう一つはキャリア教育の体系化です。1年生でグループワークなどをする「キャリアプランニング」、2年生でゼミ形式の「キャリアセミナー」、3年生で「日本企業の現状と展望」などを学びます。13年前に始めた当初は、学生に就職を意識させるものと学内で誤解されがちでした。むしろ逆。学生の方が意識過剰で就職に有利なことは何かということばかり考えて入学してきます。それを打ち壊さないといけませんでした。なぜなら、就職を意識せずに自分らしく思い切りやりたいことをやることが結果的に就職に一番有利だからです。

     --どの大学でもいわれる「グローバル力」についてはどのように見ていますか。

     グローバル力は未知の環境で人脈をつくる力であり、基本的に語学力は必要かもしれないが決して十分ではありません。日本語がうまく話せても心を通わせられない人はいます。英語が話せればグローバルなら、どんな欧米人でも日本に連れて来て仕事ができるかといえば、そんなことはありません。あくまでも信頼できる人間になり、さまざまな人と心を通わせられる人材でなければグローバルでも何でもありません。

     とはいえ、多様な人と心を通わせあう力を育むため、キャンパスに外国人留学生がたくさんいて、社会には多様な人がいることを認識しながら学べるダイバーシティーは進めます。

    吉祥寺と共に

     --成蹊大学というと、武蔵野市のみの「ワンキャンパス」も大きな特徴です。

     小学校から大学まで校舎もグラウンドも全部完備しています。幸か不幸か半世紀以上、学部数を変えなかったためワンキャンパスを維持できました。教育ボランティアで大学生が小中高生の部活動や英語などの面倒を見ることができます。信頼される人間になる教育をするのに条件が整っている環境です。

     武蔵野市とは1924年に豊島区池袋から移転して以降、密接なつきあいをしています。大規模な市政調査をして本にまとめたほか、学生と一緒に授業を受け、コースを修了すると履修証明書を発行する「成蹊アカデミア」など生涯学習機会も提供しています。まさに「吉祥寺=成蹊」のイメージは強いと思います。


    三菱グループと友好的な関係 毎日新聞大学センター長・中根正義

     1912(明治45)年創立の成蹊学園は、小学校から大学までを擁する総合学園だ。大学は学習院大、成城大、武蔵大とともに旧制高校をルーツに持つ都内の大学として「東京四大学」と呼ばれ、教職員や学生同士の交流が盛ん。経済、法、文、理工の4学部10学科からなり、東京都武蔵野市のキャンパスに約7500人が学ぶ。

     創立者の中村春二は、大正自由教育の旗手として知られている。その最大の特徴は、創立当初からの伝統である少人数、個性尊重の教育だ。1年次からゼミを中心とした少人数教育が行われている。

     中村の生涯の友である銀行家の今村繁三、三菱の総帥、岩崎小弥太からの援助もあって学園を発展させてきた歴史から、三菱グループとは友好的な関係が築かれている。歴代理事長や理事の多くは同グループ出身者が務めている。4年前にスタートした学部横断型の産学連携人材育成プログラム「丸の内ビジネス研修」にも、同グループの企業の多くが協力する。

     学部横断型プログラムとしては「成蹊国際コース」も特筆されるものだ。

     全学から約80人を選抜し、学部教育とは別に英語を基本とした特別プログラムで理解力や発信力、提案力を磨く。

     歴史と伝統を受け継ぎながら、現代社会が抱える課題にも対応した教育は評価が高く、独自のポジションを築いているといえよう。


    ワンキャンパス

     所在地

    東京都武蔵野市吉祥寺北町3の3の1=写真

     学生数

    7494人(学部合計、2017年5月1日現在)

     学部

    経済学部、理工学部、文学部、法学部

     URL

    http://www.seikei.ac.jp/university/

     問い合わせ先

    企画室広報グループ=0422・37・3517


     ■人物略歴

    きたがわ・ひろし

     1960年山口県生まれ。84年一橋大経済学部卒。89年同大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学後、成蹊大経済学部専任講師に就任。助教授を経て99年同学部教授。学長補佐、キャリア支援センター所長、経済学部長などを歴任し、2016年より現職。専門分野は経済学(貨幣論、金融論、人材開発論)。

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