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松原隆一郎・評 『交換・権力・文化 ひとつの日本中世社会論』=桜井英治・著

 (みすず書房・5616円)

 お中元やお歳暮など日本には贈答の文化がある。なかでも身近なのが冠婚葬祭の祝儀や香典で、我々は当たり前のように受け渡ししている。ところがそうした「貨幣の贈与」は他の国々では忌避され、世界史においても稀(まれ)な現象なのだそうだ。

 本書によれば、室町時代が贈与社会の極致であった。大臣に昇進した者が他の大臣を招く「大臣大饗(だいきょう)」のような「晴の宴会」では、手土産に引き出物を返す互酬関係が見られた。招待には招待で応じ、双方とも負担は親類・縁者の「助成」で賄った。贈り物は助成者へと分配され、大量に循環した。

 著者は日本中世史の専門家。貨幣史と贈与論で新たな中世像を描いてきた。本書はその新論文集。既説を研究者名とともに挙げては賛否を下し、原資料を読解・整理したうえで自説を唱えるという学術の地道な手続きが踏まれている。こうした推論の手続きは読みづらく感じるかもしれないが、原資料の紙背から厳密に読み解かれた中世人たちの暮らしぶりには生気があり、社会通念や経済学の思い込みがくつがえされる。

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