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岡崎 武志・評『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」』『まど・みちお詩集』ほか

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今週の新刊

◆『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」』佐藤剛・著(文藝春秋/税別2200円)

 2012年大晦日(おおみそか)、この年のNHK「紅白歌合戦」は異様な感動に包まれた。美輪明宏の「ヨイトマケの唄」が観客を圧倒し、「オンエアの最中から絶賛と感嘆の声」が飛び交った。しかし、この自作の曲と美輪には、長い苦難の歴史があった。

 佐藤剛『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」』は、その歴史を、同時代の天才たちを重ねながら語る異色評伝。ユニセックスな魅力でシャンソンを歌う「銀巴里」時代。ゲテモノ扱いを受け、テレビから締め出されるが、三島由紀夫は一貫して支持をした。そして、中村八大と組んで、リサイタルの成功。

 そんな中、生まれた「ヨイトマケの唄」は、1965年にテレビで歌われ大きな反響を呼ぶ。「正真正銘の日本のうた」が評価された瞬間だったが、やがて時代の波に埋(うず)もれ、封印されてしまう。

 一つの曲を松明(たいまつ)に掲げ、闇の時代に屈せず、半世紀を生きぬき、つねに復活を続けた。そんな美輪明宏こそ、天才であった。

◆『まど・みちお詩集』谷川俊太郎/編(岩波文庫/税別740円)

 岩波文庫は、今年創刊90年。古典や名著の普及に功績大の叢書(そうしょ)だが、やや保守的で古臭いイメージがあった。しかし、近年攻めの姿勢で、目を引くユニークな書目がラインアップに並ぶ。

 谷川俊太郎編『まど・みちお詩集』もそうだ。一般的には「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」「ドロップスの うた」などで知られる童謡詩人。しかし、自然や生きものに目を凝らす、独自の詩境を築いていた。エッセーも併せ、172編を収録する。

 驚くべきは連作「カ といういのち」。夏に悩まされる、あの蚊についての詩編。「この広々と白い頁に/くっきりと咲いている蚊」は「ノートに挟まれて死んだ蚊」。「神さまの目には/きみって/星のように光っているのか」は「カ」。人間に嫌われ、叩(たた)かれ死ぬ運命を、厳しくユーモラスに謳(うた)いあげて、強い印象を残す。

 「ヒトの心と宇宙のつけ根を言葉にしようとし続けた詩人」とは、解説の谷川俊太郎評だ。

◆『増補版 60年代が僕たちをつくった』小野民樹・著(幻戯書房/税別2500円)

 小野民樹『増補版 60年代が僕たちをつくった』は、2004年に出た元版に「古稀老人残日録」を増補した新版。1947年生まれの著者は都立西高、早稲田大を経て岩波書店に勤務した。90年「同時代ライブラリー」創刊にあたり、道浦母都子(もとこ)の歌集『無援の抒情』を編集。60年代に青春を駆け抜けた時代の子であった。文革、ベトナム反戦、安保・基地闘争……日本の大きな変革期。「誰でも爪先立ちしていた時代だった」と書く。1年がいまの10年に匹敵する、苦く生々しい回想記。

◆『鬼畜の宴』船戸与一・著(小学館文庫/税別510円)

 『砂のクロニクル』の船戸与一が、デビュー前に「ゴルゴ13」の脚本を手がけていた。その中から、3話を選び、自ら小説化したシリーズ第2弾が『鬼畜の宴』。アマゾンの密林で、大富豪たちによる、人間同士が殺戮(さつりく)し合うゲームが繰り広げられていた。そして殺人のプロ同士の対決が企画され、そこに現れたのがゴルゴ13であった。対する相手は好敵手のスパルタカス。引き分けのない死闘は壮絶な結果を迎え、ゴルゴは、道楽で人間狩りをする富豪たちを追いつめる。いかにも船戸タッチ。

◆『最高の空港の歩き方』齊藤成人・著(ポプラ新書/税別820円)

 飛行機に乗るためだけの場所ではない。いまや空港は、グルメ、ショッピングのほか、映画館、美術館、温泉を備える一大アミューズメントパークと化している。齊藤成人『最高の空港の歩き方』は、最新情報を盛り込み、乗らなくても楽しい空港の魅力をぞんぶんに紹介する。羽田はじつはカレー店の宝庫、中部空港では飛行機を眺めながらお風呂、新千歳では、北海道物産展と呼べるほどご当地ものが充実。ターミナル自体を巨大建築として鑑賞する(天井に注目)という視点は新鮮。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年8月6日増大号より>

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