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AV問題

男優が毎月お茶会で語る「業界のありのまま」

「お茶友の会」でAV業界について語る辻丸さん。この日のテーマは、出演強要問題だった=中嶋真希撮影

 だまされてアダルトビデオ(AV)に出演させられたなどの強要問題が表面化して1年。経歴30年の現役AV男優、辻丸さん(56)が、「当たり前の人たちが働いている業界だと知ってほしい」と毎月一度、異業種が交流する「お茶友の会」で集まりを開き、一般の人たちに向けてAV業界についての話をしている。「AVを取り締まる過剰な法規制には反対だが、被害者はいなくなってほしい。まずは業界のありのままを伝えたい」と発信を続けている。【中嶋真希】

 平日の夜、東京・新宿のカフェに男女8人が集まった。「お茶友の会」は、コーヒーを飲みながら辻丸さんと語らう。トークショーや講演会と違い、質問をするのも気楽だ。参加者に飲み物が運ばれると、辻丸さんが静かに語り始めた。

 辻丸さんは、現役でありながら、強要問題について、ツイッター(@kohe000)で意見したり、人権団体側、業界側、両方のイベントや講演会に参加してきた。両者の意見を聞いた上で、業界側に、この問題を認めて改善に取り組むよう訴えている。お茶友の会では、これまで、「男優としての人生」「AV撮影はどのように行われるのか」などを話してきた。この日のテーマは「出演強要問題」だ。

 辻丸さんは、現場で女性がAVと知らされずに無理やり出演させられる強要は見たことはないが、女優の意に反した内容の撮影を強行する現場での強要は何度も見聞きしてきた。レイプや言葉責めなどのハードな役が多かったことから、激しい言葉に女優が泣いてリストカットをしたこともあり、「女優を追い込んでいるのでは」「ぼく自身が加害者だ」という罪悪感にかられてきた。「『撮影だとわかってやっている』と言うけれど、人間は追い詰められると、目の前にカメラがあることを忘れてしまう」。辻丸さんの言葉に、参加者はじっと聴き入った。

 長く現場を見てきた辻丸さんは、現場で無理な撮影を強いられる問題の根っこについて指摘する。「よく言えば、みんなまじめ。まじめに良い作品を撮ろうとしている。それが逆に『水を差したくない』と思わせ、『こうしてほしい』と言えない雰囲気を作っている」「2000年以降、自ら出演したいという女優が増え、『どうしてそこまで』と思うほどがんばっている。そのやる気が、(AVを製作する側に)利用されているのではないか。強要を強要と未だに認識できていない業界側の意識改革こそが、この問題の一番の根幹だと思う」--。お茶会の2時間、辻丸さんは自分自身に問うように話し続けた。

「女優さんへの罪滅ぼし」

 昨春に人権団体が調査報告書を発表し、AV強要問題が取りざたされるようになって1年。なぜ、辻丸さんは発言を続けるのか。「それは、ぼくが加害者だからでしょうね。ぼくの被害を受けた女優さんへの罪滅ぼしなんていうと、非常に偽善的だし、償えるものなんて何もないんだけど……。良くも悪くも、ぼくはこの業界のおかげで生きてこられたような人間。過剰で偏向した法規制、表現規制には基本反対だし、AV業界がつぶれてほしくない。でも、被害者はいなくなってほしい。そのために、こういう意見も必要なんじゃないか」

 AV問題をめぐる動きは、この春から急速に動いた。人権団体による働きかけの効果もあり、政府は対策をまとめ、取り締まりを強化。内閣府は、被害にあわないよう啓発活動を開始した。また、4月にはAV業界に提言を行う第三者機関「AV業界改革推進有識者委員会」が設立された。契約方法などについて強要を防ぐ仕組み作りなどを提言していく。

 問題の発覚当初は、女優らから「自主的に出演している」と激しい反発が起きた。辻丸さんは「最初は感情的な反応が主だったものの、最近は、ある程度落ち着いて、各自語られるようになってきたかなという印象。これから、国、業界、有識者委員会はどう動くのか」と今後も見守っていくつもりだ。

「業界内で派閥ができてしまうのでは」

 業界の対応に期待する一方、懸念もある。有識者委員会は、業界団体であるNPO法人知的財産振興協会(IPPA)に加盟するメーカーが制作し、自主規制団体の審査を受けた作品を「適正AV」と定めた。団体への所属が基準なら、辻丸さんが出演してきた安達かおる監督が設立したメーカーのV&Rは、表現の自由を追求するためIPPAに所属しておらず、「適正AV」からは外れる。

 辻丸さんは、業界内で「適切な作品」「不適切な作品」が選別され、派閥ができてしまう恐れがあると指摘する。「早く対策を取ろうと焦るあまり、法規制と同じような規制を業界側が自らしてしまいかねない。ちょっと一歩引いて、簡単に結論を出さないこと。簡単に敵を作らず、簡単に誰かの味方にもならない。そういう姿勢が大事なのでは」

 簡単に結論を出さない。その姿勢で、お茶会にも取り組んでいる。「だから、肩書なしで来てほしいと言うんです。(問題について)知っているから、知らないからじゃなくて、そういう立場を取っ払って来てくれたら、また新しい解決策が生まれるかもしれないと思っています」

次回は8月8日

 次回は、8月8日午後8~10時、東京・新宿のCafeラヴォワで開かれる。タイトルは「詳しい人来る会・AV男優生き方・現場・仕事」で、次回のテーマは「AV女優」。参加費は男性900円+飲み物代、女性600円+飲み物代。問い合わせ、予約はお茶友の会ウェブサイト(http://analogfun.jp/

中嶋真希

2006年毎日新聞社入社。静岡支局、毎日小学生新聞などを経て15年10月からデジタルメディア局。東日本大震災の影響で統廃合した宮城県石巻市の小学校や、性的少数者、障害者の社会進出などについて取材を続けている。共著書に「震災以降 終わらない3・11-3年目の報告」(三一書房)がある。

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