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論の周辺

危機にひんする蔵書文化

 人は生涯の中で多かれ少なかれ本というものを購入し、いつしか「蔵書」を形作っていく。その数が増えるとスペース確保に四苦八苦するのは、日本の住宅事情からいってやむを得ない。しかし、そもそも電子出版が進めば、従来の蔵書という観念自体が成り立つのだろうか。

 そんな思いを抱いたのは、紀田順一郎さんの著書『蔵書一代』(松籟社)を読んだからだ。書誌学、メディア論の泰斗として数多くの業績を残してきた著者は2年前、約3万冊に及ぶ蔵書を処分した。古書市場に引き渡したのだ。紀田さんほどの著作家の蔵書ならば深みがあり、学術的価値も高かったに違いないのに、なぜ図書館や文学館といった、しかるべき機関に引き取られなかったのか。その事情を痛恨の思いとともにつづり、近代日本の出版史、出版文化を考察したのがこの本だ。

 「日本人の蔵書が西欧の蔵書家に比すると平均的にスケールが小さく、蔵書としての総体を維持し難いような印象を受けるのは、地価が高く、したがって書斎や書庫が狭隘(きょうあい)になりがちなことが主因であろう」。これが「諸悪の根源」だと紀田さんは書いている。加えて「所蔵者の没後などに受け皿となるべき公共の蔵書機関の体制が未整備であること(スペース、人員などの予算難、収書方針の狭さ)なども障害となっているこ…

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