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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「その話、盛りすぎだろう…

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 「その話、盛りすぎだろう」。大げさな話に、そう突っ込む会話を耳にする。大方の国語辞典にはまだないが、誇張する、粉飾するという意味で用いられる昨今の「盛る」だ▲より若い人たちにとって「盛る」といえば、今やネットにアップする自撮り写真などに加える画像修整を意味しよう。目鼻や口などの造作(ぞうさく)も思い通りに盛れる昨今、人々はそれぞれに「世間向けの顔」を自分で作り出せる世となった▲ネットの投稿画像といえば、悪質ないたずらをする自分の姿をアップする連中が絶えないことにも驚く。昔の感覚なら世間に顔向けならぬ所業(しょぎょう)を、できるだけ多くの人々に見てほしいらしい。「恥」の観念は崩れたのか、とけたのか▲これも「世間に顔向けならない」と恥じ入ってのことではないだろう。国税庁長官が就任記者会見をとりやめた一件である。当人は例の国有地格安売却問題をめぐる国会答弁で手続きは適正、記録はないと言い張っていた役人である▲国有地8億円引きに納得いく説明のないまま徴税行政を指揮するのなら、納税者も話を聞かぬわけにはいくまい。「諸般の事情」が会見中止の理由だが、世間をはばかってではなく、世間をあなどったなと受け止められても仕方ない▲もし「逃げるは恥だが役に立つ」と踏んだとしても、納税者の思いや感情からはそう容易に逃げ切れまい。もともと話を少々盛られる程度で驚く「世間」ではない。しかし顔を向けようともしない徴税の責任者の出現は世間の想定外である。

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