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教育改革シンポジウム

第7回高大接続教育改革シンポ パネルディスカッション「新テスト」のここが問題だ  

第7回高大接続教育改革シンポジウムのパネルディスカッション

 センター試験に代えて2020年度に始まる「大学入学共通テスト」の実施方針が7月10日、文部科学省の有識者会議によって了承された。とりわけ英語の民間試験活用に注目が集まるが、大学入試は一体、どう変わるのか--。

     現在、文科省が進めている「高大接続・教育改革」は大学教育と高校教育、そして両者をつなぐ大学入試のあり方を同時に変えていこうという試みだ。グローバル化やAIの発達に象徴される“将来が見通せない社会”で活躍するため、単なる知識の詰め込みではない「思考力、判断力、表現力」を重視した教育が目指されている。

     一方で「大学入試が変わらなければ高校教育も変わらない」と言われてきたことからも、改革の目玉はやはり、今の中学3年生からが対象になる“新テスト”だ。21年1月中旬の実施が決まった大学入学共通テストでは「記述式問題」が導入され、英語は「読む、書く、聞く、話す」の4技能を測るため、民間試験(外部試験)を活用する。駿台予備学校、大学通信、毎日新聞社が共催した第7回「高大接続・教育改革シンポジウム」で、採点の精度維持の難点や受験料の高騰など、新テスト実施に向けて山積する課題について、大学通信常務取締役の安田賢治氏をコーディネーターに、文科省、大学、高校、予備校の立場からパネリストが縦横に語り合った。

       ◇   ◇   ◇

     --新テストの「記述式問題」について、どう考えていますか。

     山田泰造(文科省高等教育局大学振興課大学入試室長) 大学入学共通テスト(以下、共通テスト)に記述式を導入する背景には、書けない生徒が多いことが挙げられます。直接書くことでしか測れない表現力を入試で評価する必要があります。全ての受験生の思考力、判断力、表現力を一つの共通テストで完璧に測るのは難しいですが、適切な内容や文字数を検証しています。

     南風原朝和(東京大学高大接続研究開発センター長) 記述式導入にはコストがかかりますから、単にあったほうがいいという観点ではなく費用対効果の総合判断をすべきです。そのためにも多くの試行問題を採点基準とセットで示してもらい、それをもとに高校の先生や大学の教員が検討に加わる必要があります。

     宮本久也(都立西高校校長・全国高校校長会会長) 書かせなければ問えない内容を出題すべきですが、そうした問題を毎年作り続けるのは大変難しいことだと思います。問題がパターン化すると記述式の問題を解くためのトレーニングを生徒が行うようになり、本来の記述式導入の意義から大きく外れてしまいます。書かせなければ問えない力は何かを見極めなければなりません。

     石原賢一(駿台教育研究所進学情報事業部長) 5月に公表された国語のモデル問題では、契約書の読解など社会で役立つような問題が提示されました。非常に工夫された問題ですが、それだけに質を維持するのは難しいでしょう。本来の学力を測るという点では良いのですが、入試ではトップ層以外はほとんど点が取れないかもしれません。結局大きくは差がつかず、従来型のマークシート式の結果で合否が決まる大学も多いと考えられます。

     --記述式は点数ではなく段階別の評価となります。採点はどのような仕組みになるのでしょうか。

     山田 採点には研修なども含め民間の知見を借り、最適に実施できる団体にお願いする予定です。条件付き記述式の出題なので条件を満たしているかという形式的な採点は可能であり、さらに思考力、判断力、表現力をどう評価するか工夫が必要です。あらかじめ採点基準を用意しますが、実際には予想外の解答が出てくることが考えられます。例えば次のような採点が行われることが想定されます。まず採点会場に近い試験会場の解答用紙を迅速に回収、確認して、採点の基準をより精緻に判定しやすくします。採点基準にのっとって複数の採点者が同じ答案を採点し、採点が合致すれば終了です。不一致の場合は上位者が確認しますが、それでも迷う場合は再度基準の見直しを行います。このようにして一定程度の公平性を確保できると考えています。今後は5万人、10万人規模のプレテストを行い、精度を高めていく考えです。

     宮本 高校入試の現場では、採点にあたりあらかじめ正答と予想される答えを考え、部分点の基準をある程度決めておきます。実際は思いもよらない解答があるので、それをホワイトボードに書き出して議論を行い、その結果を踏まえて場合によっては採点基準を修正し、前に戻って同じような答案がないかをもう一度確認しています。50万人以上の大規模な試験、また採点会場も分かれている中で、全ての答案を同じ条件で採点するのは非常に難しいと思います。一方で採点が容易な問題にすると、書かせる必要のない問題になってしまいます。問題の質と採点の両立は非常にハードルが高いです。

     南風原 記述式における解答の多様性は人数に比例します。本番の1000分の1の規模で行われた検証試験であっても驚くような解答がいくつも出てきます。もし本番で採点の後半に全く新しい解答が出てきた場合、採点基準を見直す時間はあるのでしょうか。各大学への成績通知が遅れると大混乱となるので、そうならないという確証がなければ踏み出せません。

     石原 大きな問題は採点者の質の担保です。数十万人規模の記述模試を行う多くの予備校では、採点者を年間契約で雇って常に研修を行っています。比較的難易度の低い試験から慣れてもらうなど配置を考えますし、採点の正確性で待遇に差をつけることもしています。共通テストを採点する民間業者は優秀な採点者を用意して態勢を整えられるのでしょうか。個別試験の記述式では各大学の教員が担当するので採点者が分かります。それが見えないのは不安です。

    英語「4技能」を測る工夫は他でもできる

     --英語の外部試験も段階評価です。どんな影響がありますか。

     南風原 各試験をCEFR(セファール=国際基準規格)の段階別評価に換算することしか想定されていないようですが、英語だけ段階評価で、その他が1点刻みといういびつな形でよいのでしょうか。CEFRは6段階ですが、上の3段階には非常に優秀な生徒がごく少数いるだけで、日本の高校生は現実的に3段階(にしか評価できない)です。たとえば東京大の1万人の受験生のうち6000人が一つの段階にいれば、英語は試験をしていないのとほとんど同じです。一般入試では複数科目の合計点で合否を決めるため、外部試験の段階評価も他教科に合わせて点数化することで同等に扱われます。実施形式の異なる共通テストと外部試験を同じように比べなければならず、テスト測定論からすると非常に乱暴な話です。

     山田 文科省では6段階評価のCEFRの換算基準を示しますが、絶対ではありません。今でも受験生に合わせて独自の基準で外部試験を使っている大学もあります。大学や学部・学科のアドミッションポリシーに沿って、どの指標に高い価値を置くかを各大学で決めてもらうことを考えています。

     宮本 大学ごとに外部試験への対応が大きく異なりますし、各大学から活用方法が公表されていない段階では具体的な対策はできません。高校の進路指導や学習指導は難しくなると感じています。

     石原 外部試験は学校行事にも影響を及ぼします。今年の日程だと7月の全ての日曜日がいずれかの外部試験で埋まります。生徒が各自の志望校に合わせて個別に試験を受けると、部活動の大会などは成り立たなくなってしまいます。

     南風原 高校生が外部試験対策に追われることなく、学校の勉強や課外活動に専念できる態勢を作ってほしいですね。英語の4技能を共通テストで問う理由は、中等教育段階での取り組みが進んでいないからとのことですが、定期テストで4技能の問題を出して結果を調査書に反映させる、あるいは(19年度から実施予定の)「高校生のための学びの基礎診断」や(小6、中3が対象の)「全国学力・学習状況調査」で一律に4技能を測るなど、時間的な制約なくできることは多いはずです。本来はそういったことから手をつけるべきではないでしょうか。

    受験料を押し上げ!?記述式の採点コスト

     --受験料への影響は。

     山田 マークシート式と比べて記述式の採点はコストがかかります。記述式のコストを受験料だけで吸収することになれば、値上げもありえます。財政状況も家計も厳しい状況ですが、テストの金額の高さから大学進学を諦める生徒をなくす方法を考える必要があります。受験料については、センター試験の料金体系を基準に考える、新たな料金体系を作るなど多くの選択肢を検討しています。

     宮本 今より金銭面の負担が増える見通しは強くなっています。経済的に厳しい家庭の生徒でも大学進学を考えられるような何らかの対応が望まれます。単に共通テストの受験料を下げるだけでなく、国には新しい大学入試にかかるコスト全体に対する新たな補助制度を考えてほしいですね。

     南風原 試験時間が延びて監督者の人件費が増えるなど、さまざまな部分でコストは上昇します。記述式は今後、全科目に広げていく予定とのことですが、現実的な判断が必要ではないでしょうか。

     石原 特に国公立大でコストが上がります。私立大は一般入試がそのまま残るので今までと同じ準備で対応できますが、もともとの学費が高いです。経済的に厳しい人が比較的少ない負担で大学進学を目指せる国公立大で、入試にかかる費用が高くなることには疑問が残ります。

     --英語の外部試験の受験料が別途かかるため、所得が多く試験会場も近い都市部の生徒が有利になるともいわれます。地域間格差や経済格差の問題は?

     山田 現在、外部試験団体に対して、大学入試に使う人、特に経済的に恵まれない人の受験料の抑制や、多くの地域・回数での試験実施をお願いしています。一方で、高校などで行う準会場実施にはセキュリティーの課題があり、高校実施を廃止すれば、新たに会場を用意して試験官を派遣する必要が生じ、コスト上昇につながります。地域、受験料、セキュリティーのバランスを取りつつ、地域間格差の解消や受験料の抑制に取り組んでいく必要があります。

     石原 日本人は入試の公平性に対して非常に厳格です。仮に試験問題の流出などが起きた場合など、民間業者にはどの程度の責任を求めるのでしょうか。納得できるレベルで試験を実施できるか分からないことが不安の底流にあります。

     宮本 民間の活用という点は今までの入試システムと全く異なる部分です。今までは大学入試センターという公的な組織が管理してきましたが、今回はまず文科省が民間の検定団体に理解を求め、彼らの方針が出ないと全体像が見えてきません。それがこの議論がなかなか前に進まず、不安が解消されない一つの要因だと思います。

     南風原 近年は多くの大学が独自に外部試験を用いることで、一般入試と併用しながら4技能評価を取り入れています。定員の1~2割程度に数を絞ることで上手に運用し、実施のノウハウも蓄積されつつあります。今後も利用は伸びていく傾向にあるので、大学独自の動きを見守ることを考えてもいいのではないでしょうか。

     山田 4技能を測るという方向性に賛同しない人は少ないと思います。記述式も4技能も、完全に公平な評価が難しいからこそ、重要だが課題として残されてきたのです。高校3年間の学びを変えるためにも、現在の試験を変えていく必要があるのです。外部試験と共通テスト、記述式とマークシート式は、それぞれ並行して実施していきます。さまざまな批判や課題はありますが、期限を決めて課題を解決しながら進んでまいります。

     --対象となる外部試験団体を決める今後のスケジュールは。

     山田 認定基準は秋ぐらいまでに各試験団体に示します。その後は審査を経て、本年度内に認定または仮認定する外部試験団体が明らかになるように取り組んでいます。

    「調査書重視」により、浪人生は不利になる

     --調査書が新しくなり、各大学が一般入試にも使うようになります。何が変わるのでしょうか。

     山田 今回は様式を分かりやすく変更するのみで、根本は大きく変えません。一方で、高校3年間のさまざまな活動が大学入学につながるのはとても大事なことだと考えています。さまざまな使い方があると思いますが、一般入試も含めて調査書をどう活用するかを各大学に明示してもらう内容です。時間的な制約もあり、現状では入試で全てを細かく確認するのは難しいですが、電子化などの議論も進めつつ、大学が使いやすい形にしていきたいと考えています。調査書の入試への活用が進み、将来的にはどの受験区分でも多面的、総合的な評価ができるようになることを目指しています。

     --これまで一発勝負の側面が大きかった一般入試でも、丁寧な選抜が行われるようになるということですね。

     石原 調査書を重視する一般選抜が広がると浪人生は不利になります。調査書の内容は浪人しても変わらないからです。調査書の入試への活用はもちろん評価するのですが、浪人という形で学力や人間性を伸ばし、再チャレンジする意欲についても、何らかの形で評価される仕組みを考えてほしいです。

     宮本 今後、新学習指導要領が実施されると、「学力の3要素」に対応した形の評価を行うために調査書も大きく変わるでしょう。生徒の高校でのさまざまな学びを評価するためには記載を増やす必要があり、高校の先生の負担はかなり増えると予想しています。その負担増に見合う、価値ある選抜としていけるかも、改革のポイントではないでしょうか。【構成/大学通信・松平信恭、井沢秀】

    *週刊「サンデー毎日」2017年8月13日号より転載

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