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岩間陽子・評 『私にはいなかった祖父母の歴史』=イヴァン・ジャブロンカ著

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 (名古屋大学出版会・3888円)

愛の書であり、祈りの書である

 「ユダヤ人が絶滅されてしまったことで、どれほどの空虚が生まれたのかということがわかったわ。まるで、パルチェフが自分の魂を失ってしまった具合なのね。」

 これもまた、失われたヨーロッパ=ユダヤ世界についての書である。しかし、今まで読んだどんな本とも異なる。1973年生まれの著者イヴァン・ジャブロンカ(ポーランド読みでヤブウォンカ)には、父方の祖父母がいない。彼らの記録は、アウシュヴィッツで途絶えた。イヴァンは、祖父母の魂を回復させる旅に出る。彼は歴史家だから、世界を修復するために。ヨーロッパの片田舎で古文書をたどり、世界中に散らばったヤブウォンカ家の人々の記憶に分け入る。その結果を「書く」ことを通じて、祖父母、マテスとイデサ・ヤブウォンカは、再びこの世に存在を、生を与えられる。

 祖父母は20世紀初頭に、当時ロシア領のパルチェフ村に生まれた。当時のパルチェフには、共産主義、ユダヤ主義、無神論、シオニズムなどの思想が沸騰していた。第一次世界大戦、まずドイツ軍がやってき、ロシアが敗北し、1918年にパルチェフはポーランドになる。翌年、今度はボリシェヴィキの戦車がやってきた。イヴァンの祖父母は共産主義者であった。彼らは革命の時が到来したと信じた。しかし、この時ソ連軍の前進は、「…

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