今年初め、文芸春秋電子書籍編集部のスタッフはインターネット上にこんな書き込みがあるのを見つけた。「トランプ政権の誕生を予言していたんじゃないか?」。小松左京さんが1977年に発表した短編小説「アメリカの壁」(文芸春秋)を読んだ反応だった。
小説は「輝けるアメリカ」「美しいアメリカ」とのスローガンを掲げた孤立主義者のモンローという名の大統領が登場する。白い霧の「壁」をつくり出すことでアメリカは外の世界との交通、通信が遮断されるという物語だ。不法移民の流入を阻止する目的でメキシコとの国境に壁を築くことを選挙公約に掲げ、「アメリカ・ファースト」を訴える現代のトランプ大統領の姿と重なる。同社は今年2月、この作品を電子書籍として緊急発売した。「今読んでおくべき作品」などと話題になった。
「モンロー主義」を取るなど対外的に閉鎖的になりがちな米国の本質を小松さんは鋭く突いていた。コアなファンが集う「小松左京研究会」のメンバーで、国立大職員の澤田芳郎さん(63)は次のように解釈する。「未来を予言するつもりではなかったと思います。アメリカとは何かを掘り下げ、歴史に関する深い知識に基づきシミュレートしたら、結果的に当たったということでしょう」
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