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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 「サムサノナツハオロオロアルキ」。寒さの夏はおろおろ歩き--は宮沢賢治(みやざわ・けんじ)の詩「雨ニモマケズ」の一節である。岩手県の農業技術者だった賢治にとって、寒い夏は実らぬ稲と飢饉(ききん)の到来を意味していた▲その賢治はイーハトーブの冷害による飢饉で父母を失い、妹をさらわれた少年の物語「グスコーブドリの伝記」を書いた。技術者となったブドリは火山の噴火による温室効果ガス放出で冷害から人々を救おうと自らの身を犠牲にする▲賢治の願いは一面でかない、一面で予想外の展開となった。品種改良などで人々は飢饉の恐怖から解放され、逆に温室効果ガスによる地球温暖化が心配な世となった。だが依然、人々を困らせる「サムサノナツ」は時おりやってくる▲東京は8月に入って16日連続の雨で、気温も低く、日照時間は33時間足らずである。かつて冷害に苦しんだ東北地方太平洋岸はさらに長雨で、仙台市は26日間連続雨、今月は気温が30度を超えた日がなく、日照時間も12時間余という▲原因はこれも過去の冷害をもたらしたオホーツク海高気圧からの冷たく湿った東風--「やませ」という。米不足を招いた24年前の冷夏を思い出すが、それほどでなくとも低温と日照不足による農業への影響は避けられそうにない▲「さかづきを置きぬ冷夏かもしれず 星野麥丘人(ほしの・ばくきゅうじん)」。季節にかかわる仕事か、ふと冷夏を予感して不安になり酒杯を置いたらしい。時代変われど、天の気まぐれの下で「オロオロアルキ」するしかない人間だ。

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