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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『あなたの隣にいる孤独』『いちまいの絵』ほか

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今週の新刊

◆『あなたの隣にいる孤独』樋口有介・著(文藝春秋/税別1500円)

 樋口有介の長編『あなたの隣にいる孤独』を面白く読んだ。母親と二人暮らしの玲菜は、もうすぐ15歳の中3。ただし学校へ行っていれば、だ。「あの人」に見つかったらひどい目に。母娘は転居をくり返し、逃亡していた。玲菜には戸籍がなかった。

 ある日、母親からのメールで、「あの人」に見つかったことが伝えられ、アパートに帰れなくなった玲菜。蔵の町・川越で途方に暮れ、行き場所を失った。父親のDV? 玲菜の身に危険が? なにしろまだ14歳……暗い想像が渦巻く展開だ。

 しかし、リサイクルショップの愉快な老若男性コンビに保護され、小説のムードが変わる。玲菜の顔に笑みさえ浮かぶ。「玲菜さんの迷惑はいい迷惑」という62歳の秋吉店主は、孫の周東と組んで、孤立無援の少女の過去に迫り、ブラックボックスを開く。

 ミステリータッチでユーモアを交え、川越の町が隅々までたっぷり描かれる。川越市民の方々は、必読でしょう。

◆『いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画』原田マハ・著(集英社新書/税別900円)

 『いちまいの絵』の著者・原田マハは、新刊が出るたびに話題となる人気作家。かつて美術館のキュレーターを務め、『楽園のカンヴァス』ほか、美術をモチーフにした作品も数多い。

 そんな原田が、「生きているうちに見るべき名画」26点について語る。ピカソ「アヴィニヨンの娘たち」の第一印象は「ものすごく下手くそだ」。しかし、この一枚が「個性こそが新しい『美』の定義であると信じた画家の挑戦」だと位置づける。

 そのほか、セザンヌ「セザンヌ夫人」、モネ「睡蓮」、ムンク「叫び」など、たいてい一度は目にした名作を、個人的な体験も含め、耳元に囁(ささや)くようにガイドしていく。美術史家による冷たい解説(やや退屈)は、ここにない。

 最後に登場するのが、たった一枚の日本の絵。東山魁夷「道」の章は感動的だ。授業よりもアルバイトを優先させた学生時代、未来が見えず、著者の心の道しるべとなったのがこの絵だったのだ。

◆『階段を下りる女』ベルンハルト・シュリンク/著(新潮クレスト・ブックス/税別1900円)

 ベルンハルト・シュリンクは世界的ベストセラー『朗読者』で知られるドイツの作家。新作『階段を下りる女』(松永美穂訳)のタイトルは一枚の絵のタイトルでもある。肌の青白い全裸の女が階段を下りてくる絵。年を取った金持ちが、自分の若妻を若い画家に描かせた。しかし、女は突然姿を消した。この絵に巡り合った「ぼく」は、彼女を追い求め、海辺の町で出会う。女には、消せない過去があった。姿を消した女、再会、そして一枚の絵を巡る隠されたラブストーリーを描く絵画小説。

◆『協同組合の源流と未来』日本農業新聞・編(岩波書店/税別1800円)

 2016年ユネスコは「協同組合」を無形文化遺産に登録した。生活、漁業、森林、労働者と「協同」する組合は多数。共通の利益と価値を通じてのコミュニティーづくりと、社会問題の解決策を生み出す力が評価された。日本農業新聞編『協同組合の源流と未来』は、JAを中心に、相互扶助の精神を貫くルーツと、そして未来の可能性を探る。国家や行政、企業とは別に、自主自律した活動の理念とは何か。新自由主義がもたらす弊害が増す中、その存在意義はますます高まることを再確認する。

◆『坂本九ものがたり』永六輔・著(ちくま文庫/税別800円)

 夏が来れば思い出す。32年前の夏、御巣鷹山に消えたあの笑顔と歌声。永六輔『坂本九ものがたり』は、世界的な大ヒット曲「上を向いて歩こう」を生んだ作詞・永六輔、作曲・中村八大、歌手・坂本九の「六・八・九」トリオの出会いと、戦後芸能史のなかでそれぞれがいかに歩んだかを記録する。坂本は、邦楽が流れる花街で九番目の子として生まれ、プレスリーに憧れ、バンドボーイからやがて国民的な歌手となっていく。日本の復興の元気は、この人とともにあった。名曲誕生秘話も読ませます。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2017年9月3日号より>

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