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「風水害対策支援チーム」誕生 岩手県が市町村に助言

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入所者9人全員が亡くなった高齢者グループホーム「楽ん楽ん」。近くの川が氾濫して建物は天井付近まで水没したが、避難勧告や指示は出ていなかった=岩手県岩泉町で2016年9月10日、猪飼健史撮影 拡大
入所者9人全員が亡くなった高齢者グループホーム「楽ん楽ん」。近くの川が氾濫して建物は天井付近まで水没したが、避難勧告や指示は出ていなかった=岩手県岩泉町で2016年9月10日、猪飼健史撮影

 昨年8月30日に甚大な被害をもたらした台風10号による豪雨を教訓に、岩手県は今夏、専門家が避難勧告などの必要性を検討し市町村に助言する「風水害対策支援チーム」を設置した。どんな組織なのだろうか。

 ●情報が届かない

 昨年の台風10号は特異な進路をたどり、気象庁の統計開始以来初めて東北地方の太平洋側に上陸した。縦断コースとなった岩手県では、高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」の入所者9人全員が死亡するなど20人が犠牲となった岩泉町を中心に、死者21人、行方不明者2人を出した。

 被害が広がった一因は、川の急な増水への警戒が遅れ、住民の避難が後手に回った岩泉町の対応にあった。台風が接近した昨年8月30日朝、町は高齢者らの避難を促す「避難準備情報」を出した。だが、豪雨で川が急激に増水した夕方以降、県や気象台からの「氾濫注意水位を超えた」などの情報は町の災害対策会議に報告されず、町は避難勧告や指示を発令できなかった。

 ●外部から支援も

 岩泉町は人口9697人(7月31日現在)、65歳以上の高齢化率が4割を超す山あいの町。面積は本州の町で最大の992・36平方キロあり、東京23区よりも広い。だが当時の防災担当職員は他業務も掛け持ちする3人だけ。町民の問い合わせ電話なども役場に殺到する中、大雨に関する情報が共有されず、直接「楽ん楽ん」などに避難を呼びかけられないまま惨事が起きてしまった。

 岩手県内には、岩泉町のように過疎高齢化の進む小規模自治体が少なくない。県は「同じようなことが起きかねない」として、外部の専門家による支援が必要と判断。県防災会議の分科会による検討を経て、「風水害対策支援チーム」の設置を決めた。チームは、班長の県総合防災室長を含め県3人、盛岡地方気象台1人、国土交通省岩手河川国道事務所1人、岩手大4人の計9人で構成される。

 気象台が台風に関する説明会を開くなど風水害の恐れがある場合、班長が招集する。台風が最接近する8時間前をめどにメンバーは県警戒本部に集まり、市町村の対応状況を確認する。気象予報や土砂災害警戒判定メッシュ情報(5キロ四方の領域ごとに土砂災害発生の危険度を5段階で判定)などを基に災害発生が予想される地域を絞り込み、市町村長らに避難勧告・指示の発令などに必要な情報を提供し、助言する。6月の初会合では、昨年の台風10号を参考に、台風接近時の対応手順をまとめた「タイムライン」も提示。時間の推移とともに、支援チームがどのように役割を果たしていくかを確認した。

 ●迅速対応に不安

 この夏、風水害対策支援チームが実際に運用されたケースはまだない。ただ、7月の九州北部豪雨のような集中豪雨が起きた場合、メンバーの招集が間に合わない可能性があるなど、迅速に対応できるか課題も残る。小規模自治体では、防災業務に通じた職員が少なく、支援チームの助言を正しく理解できないことも考えられる。

 岩手県は今後、効果的な情報伝達方法を模索する一方、市町村職員にも防災知識を深めてもらうため研修会などを開く方針だ。26日には、台風接近による大雨を想定して県などが実施する総合防災訓練に、風水害対策支援チームも初めて参加する。自治体とのやり取りを通して、防災情報の提供や助言の手順などを確かめ、改善に役立てたい考えだ。【内田久光】


避難勧告の費用補償する保険

 自治体が避難勧告などを発令する際、主に気象庁や都道府県からの情報と、職員による見回りで対象範囲や避難先、タイミングを決めている。見回りは、避難したけれど災害は起きない「空振り」が続くと住民が避難しなくなるリスクを減らすよう実態に即した発令を目指すためだ。

 だが発令のタイミングの判断は難しく、被災した住民から「もう少し早く避難勧告が出ていれば、どこか安全な場所に行けたかもしれない」という意見が出ることは多い。

 また発令に伴う費用は、災害救助法が適用されなければ、すべて自治体負担となる。「職員の超過勤務手当などかなりの費用が発生する」(関東地方の自治体)といった財政負担の懸念も大きい。

 こうした声を受け、損害保険ジャパン日本興亜株式会社は4月、避難指示(緊急)、避難勧告、避難準備・高齢者等避難開始の発令に伴う費用負担を補償する保険を始めた。台風や豪雨などの自然災害や山火事などが起きて避難勧告などを発令した際の避難所の設置費用、飲食料や毛布などの生活必需品や衣料品の費用、医療や助産費用、職員の超過勤務手当などを補償する。

 全国市長会や全国町村会を通じて加盟する団体保険制度となっていて、全国の自治体120ほどが加入している。自治体からは「水害が多く発生している現状をみると、加入しておいてよかった」(東北地方の自治体)といった感想が寄せられている。【大谷麻由美】

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