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女は死なない

第11回 男はそうであってほしい=室井佑月

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 今年の夏も終わった。息子は現在、高校2年生。そろそろ人生について、親子で真剣な話をしなくてはいけない。

     お互いに、照れくさいから真面目な話は苦手なんだけどね。てか、最近では会話らしい会話もしていない。

     でも、しておかなくちゃ。来年になれば、学校で親も交えた進路面談がある。そこで、具体的に受験したい学校や学部を述べなくてはいけないみたいだ。

     学校では全国模試などを受けさせられているようだ。息子も「俺の偏差値からすると、だいたいこの大学……」などと考えているのかも。

     模試の結果に書かれてあった、希望校の学部がバラバラだった。なにを考えていんだ、この男? たぶん、なにも考えちゃいないのだ。

     まず、息子が真っ先に考えねばならないことは、漠然としているが、自分についてじゃなかろうか?

     あたしがいっているのは、どういう職業につきたいとか、そういう細かい話じゃない。自分はなにをしたいかによって、重宝する知識というのがあるはずだ。

     その人の生き方が、職業と直結しているという人もいる。が、あたしは自分がやりたいことを成し遂げる、重要なアイテムの一つとして職業を捉えている。

     大学や学部なんてもんは、なにをやりたいか決めてからのことだと思う。そして、そのためにはどういう職業につくのがいいかを考え、でもってその後、最後に希望校、希望学部が見えてくるんじゃないか。

     たとえば、医者の鎌田實さんは、『JIM-NET』という団体を作り、難民支援を行っている。海外の危ない場所でも、診察へいく。その前は、潰れかけている地方の病院で地域医療に励んだ。

     彼の本を読んでわかったが、彼は1歳のときに養子に出され、個人タクシーを営む養父と病弱な養母によって育てられた。

     あたしはそのことが彼の生き方に大きく関わっていると思う。血をわけていない養父母に、愛情込めて育ててもらった自分。その自分は、社会の困っている人や弱者を助ける活動をしてゆく。

     立派だ。何事にも揺るぎようがない、一本筋が通った生き方だ。

     きっと、彼の目標は「医学部に入って医者となる」ではなくて、「医者となって世の中の弱者を救済していく」なんだろうと思う。

     あたしは息子に、鎌田さんの話をした。

    「で、おまえは生きてるうちになにをしたいのか?」と。

     息子はばかにしたように、

    「医者? 俺、文系だっつーの! これから医学部ねらえって? ばかかっ。」

     といって笑った。あたしは、

    「ばかはおまえだっつーの!」といい返した。

    「そういう話じゃないってば。進みたい大学、決まらないんだろ。あんたの頭を整理させてやろうと思っていってるの。あんたは世に出て、なにをしたいのか?」

    「あんただって、そんなこと考えてないだろ」

     あたしはそこでハッとした。あたしの人生のほとんどは、目の前のこの男をまともに育てようとすることに集中した。年老いた親のこともあった。

     生活のため、お金を稼ぐために働いて。ようやく、今している仕事の中から、自分のすべきことを見つけた。それは、体制に潰されそうな世の矛盾や、不都合なことを言葉に出して発信すること。でもそれって、後付けよね。

     いいんだよ。家族のため、生活のために生きるっていうんでも。それだって、立派でしょ。しかし、息子は違うと思ってしまう。

     なんでだろ? 考えこんでしまった。そしたら、今ままで思ってもみなかった言葉がふいに頭に浮かんだ。

    「男と女は、違う」

     仰天した。だって、ほんとうに今までそんなこと思ってもみなかったんだから。

     あたしは心の奥底で、なにか社会を動かすような大きな目標があるのが男、と思っているようだった。

     だから、フラフラしている男にも優しかったのか。今は悩んでるとき、などと深読みして。

     大きな目標があったとして、そこへ到達するには努力も能力もいる。努力する才能と能力に、男も女も関係ない。そして、目標が大きいか小さいかは、その人の器が判断する。

     わかってる。わかっているけど、男は一生をかけてやり遂げるような大きな目標を持っていてほしい。偏見ですかね? いいえ、そうであってほしいという話。

     そういう男がタイプってだけかも。

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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