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「ツマロウ」 長崎県佐世保市・山崎芳子(87歳)

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 農家の庭先で玉音放送を聞いて以来、一日も早く住み慣れた町へ帰りたかった。疎開していた村落は混乱の中、無医村状態となり、野火のように広がった赤痢で2歳のめいは亡くなった。6歳の弟は辛うじて助かったが疎開者には過酷な環境だった。帰るべき家は空襲で焼けてしまい、やっと親類の借家に着の身着のままで転がり込んだのは、終戦後3カ月の頃だった。山の中腹の家は不便この上もなかったが、帰ってこられただけでうれしかった。

 そしてあの夜、玄関の戸をたたく音に雨戸のすき間から見えたのは闇に紛れたような黒い人だった。遠慮がちに二度三度と戸をたたき、応答がないと知るや「ツマロウ」と言って立ち去った。私には「あした」という意味だと分かった。母と姉妹、6歳の弟と5人は息を殺して、じっと彼が去るのを待っていた。

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