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開沼 博・評『生涯投資家』村上世彰・著

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日本経済の転換点を語る平成の歴史資料でもある

◆『生涯投資家』村上世彰・著(文藝春秋/税別1700円)

 これまで新聞・雑誌で数百冊の本を紹介してきたが、その裏には、紹介したくても紹介できない本も無数にあった。

 紹介できない理由はさまざまだが、一つのパターンは、一度、スキャンダルの中で世間から排除された人や組織の本だ。当然、修羅場を経験した人の話は面白くて誰かに勧めたくなる。ただ、「人情噺(ばなし)が織り交ぜられた元悪人の言い訳にころっと騙されているだけでは」と自信が持てなかったり、誰かにそう見られるのではと不安になったりもする。この本にもそんな逡巡(しゅんじゅん)を感じなかったわけではない。それでも本書の魅力を誰かに紹介したくなってしまったのは、私の価値観・世界観を決める原体験の一つに、著者の村上世彰(よしあき)が最終的に逮捕されるに至る10年あまり前の一連の事件があったことを改めて感じたからだ。

 ライブドア事件や村上ファンド事件があった当時、私は大学の学部生だった。少し年上の物書きの先輩から「自分も1997年のアジア通貨危機の時に学生で、時間と興味があったのでひたすらそのニュースを追って、自分がどこまで調べ、考え尽くせるか試していた。その経験がいま生きている」と言われた。振り返れば、その助言はそれなりに正しかったように思う。

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