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社説 桐生選手が100メートル9秒98 20年越しの壁突破を祝う

 桐生祥秀(よしひで)選手の快挙を祝いたい。陸上男子100メートルで、日本勢として初めて10秒を切る9秒98の日本新記録を樹立した。

     これまでの日本記録は1998年に伊東浩司選手が出した10秒00だ。「10秒の壁」を越えるのに実に19年の歳月を要した。

     世界で初めて10秒を切ったのは68年のジム・ハインズ選手(米国)で、9秒95がその記録だ。日本より半世紀近くも早い。それほど世界と日本には距離があった。

     短距離走はアフリカ系の選手に優位性があるといわれる。過去9秒台を記録した約120人を見ても、アフリカ系以外は数人しかいない。これだけ人種、民族性が競技力に直結する種目も多くはないだろう。

     桐生選手は176センチ、70キロと体格では外国勢に劣る。しかし、9秒58の世界記録保持者、ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)を上回る最大5歩のピッチ(1秒当たりの歩数)と、トップ選手よりも強い踏み込みの力で記録を伸ばした。

     陸上短距離の100メートルは、いかに他者より速く走るかという人間の最も基礎的な能力を争うスポーツだ。そして、その運動能力の限界に挑む姿が人々に感動を与えてきた。

     桐生選手は京都・洛南高3年の2013年春に日本歴代2位となる10秒01をマークした。東洋大進学後、けがに苦しみ、記録も伸び悩んだ。「重圧に弱い」とも言われた。大記録はくじけず精進を続けた結果だ。

     国内のライバルの存在も大きい。山県(やまがた)亮太、ケンブリッジ飛鳥の両選手に加えて、今季はサニブラウン・ハキーム、多田修平の両選手も大きく成長した。

     日本短距離界は群雄割拠の時代に入り、誰が最初に9秒台を出しても不思議ではなかった。

     世界記録の9秒58と9秒98とでは約4メートルの開きが出る。しかし、9秒98はリオデジャネイロ五輪では7位に、今夏の世界選手権では4位に相当する記録でもある。

     過去の五輪で男子100メートル決勝に進んだ日本勢は、「暁の超特急」と呼ばれ、32年ロサンゼルス大会で6位入賞した吉岡隆徳(たかよし)選手一人だ。

     東京五輪では日本選手が「ファイナリスト(決勝進出者)」としてレーンに並ぶ姿を期待したい。

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