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南三陸

絵描き漁師、笑顔を力に…避難所で似顔絵、評判に

子どもの似顔絵を描く阿部仁文さん(左)=宮城県登米市の柳津虚空蔵尊で2017年9月10日午後0時2分、中川友希撮影
阿部仁文さんが描いた、亡くなった遠藤未希さん(下段右から4人目)と親戚一同の似顔絵=宮城県南三陸町の母美恵子さんの自宅で2017年9月4日午後1時33分、中川友希撮影

 歯を見せて笑う女性、津波の被害を免れた浜の光景--。宮城県南三陸町の漁師、阿部仁文(ひろふみ)さん(39)は2011年夏から、被災地で生きる人たちの似顔絵や震災後の海辺の風景を描き続けている。家業を継ぐため、震災前に一度は芸術活動を諦めたが、今は「その人らしさがわかる似顔絵や、漁師ならではの視点で南三陸の景色を描きたい」という。【中川友希】

     「何のジュース、持ってるの」「歯、抜けてるんだね」。阿部さんが、ぽつり、ぽつりと子どもに話しかけ、表情を引き出していく。似顔絵を描き始めて6年がすぎた。

     南三陸町の漁師の家に生まれたが、漁より絵が好きだった。東京造形大学で絵画を学び、卒業後もアルバイトや派遣社員をしながら個展を開いた。09年3月、母の病をきっかけにUターン。「絵では生活できない」と筆をおき、漁師になった。

     そして震災。自宅やワカメなどを選別する作業場は津波にのまれたが、家族で高台に逃れ、無事だった。

     避難先で見たテレビのニュースに、南三陸町の避難所で毛布にくるまり、横になる人々の姿が映った。「何か元気づける方法はないだろうか」。大学生の頃に経験した似顔絵のアルバイトを思い出すと、画材道具を携え、避難所に向かっていた。

     描きながら、自らも南三陸で被災したことを語り、打ち解けた。高齢の女性に「私、こんなに、しわだらけなの」と笑われたり、子どもたちに喜ばれたりした。素直な反応が「うれしかった」。似顔絵は評判を呼んだ。

     「震災で亡くなった人を描いてほしい」という依頼も舞い込んだ。11年末、南三陸町の遠藤美恵子さん(59)から、震災で亡くなった娘未希さん(当時24歳)の似顔絵を頼まれたときは、何度も遠藤さん宅を訪ね、世間話をしながら未希さんの人となりを聞いた。

     「写真にはなかった、未希らしい優しい笑顔が描かれていて心が穏やかになれる。いつでも一緒にいる気持ちになれる。生きていくための一歩を踏み出せた」。涙する遠藤さんに、ほほ笑む未希さんが笑顔の家族や親戚に囲まれている別の絵も頼まれて描いた。

     自宅は再建したが、ワカメの加工施設の復旧は見通しが立たず、漁獲量も震災前の半分以下のままだ。だが、阿部さんは言う。「南三陸に帰ってきた時、漁師をやるのは義務感からだった。似顔絵を始めてからは漁師も楽しいと思えるようになった。これからも南三陸の魅力を伝えたい」。ふるさとの海産物や海辺の景色をポストカードにし、販売も始めた。

     描かれた人々も、描く阿部さんも、笑顔を取り戻す。似顔絵が未来への一歩を踏み出すきっかけになった。

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