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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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米国で同時多発テロが起きた翌年…

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 米国で同時多発テロが起きた翌年(2002年)、戦争や、殺人などの暴力犯罪による死者は計約74万人に上った。ただ、この年に世界で死亡した人の1・3%に過ぎない。「ほとんどの人は、自分がいかに平和な時代に生きているかを実感していない」と「サピエンス全史」(ユバル・ノア・ハラリ著)は述べる▲74万人を少ないと感じるかどうかは別にして、人類史という巨視的な立場で見れば、戦争や暴力犯罪で命を落とす人の割合が著しく減ってきたのは事実だ▲それよりも現代人を数多く死に追いやっているのが、自殺だ。02年は世界で87万を超える人が自ら命を絶った。戦争と暴力犯罪の犠牲者の総計よりも自殺の方が多いのである▲この傾向が特に顕著なのが日本だ。昨年の自殺者は2万1897人で、殺人による死者289人、交通事故死3904人より桁違いに多い。日本の自殺率は世界で6番目に高く、主要7カ国で10位以内に入っているのは日本だけだ▲政府は今年7月に自殺総合対策大綱を見直し、自殺率を今後10年間で3割以上減らす数値目標を示した。自殺率が高い若年層の対策は重要だ。長時間労働の解消、産後うつへの対策、性的マイノリティーに対する理解の促進など取り組むべき課題は多い▲戦争や暴力犯罪の減少をもたらしたのは、国家や市場の台頭だと前掲書は指摘する。国家の管理する警察や裁判はどの国でも治安の水準を上げてきた。自殺について国家の果たすべき役割はもっと大きいはずだ。

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