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若島正・評 『マルセル・デュシャンとチェス』=中尾拓哉・著

 (平凡社・5184円)

 モダン・アートに多大な影響を与えたフランスの芸術家マルセル・デュシャンの作品群は、今なお鑑賞者の想像力を刺激してやまない。ある展覧会で、男子用小便器に「リチャード・マット」名で署名したものを出展しようとして物議を醸した事件に始まり、通称《大ガラス》と呼ばれる、未完成のまま制作を放棄した《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》、死後発表された遺作となる、覗(のぞ)きからくりを想わせる《(1)落ちる水、(2)照明用ガス、が与えられたとせよ》まで、デュシャンの制作物はたえずわたしたちに「芸術とは何か」を問いかける、謎でありつづけている。

 その一方で、デュシャンは《大ガラス》の制作を中止した後、もっぱらチェスを指すことに没頭していた。それはほとんどの人にとって、芸術を放棄したふるまいのように見えた。たとえ、《遺作》で覗き穴から見える「裸体」がチェス盤の一部を想定した市松模様の床材の上に設置されているという事実を知ったところで、それがデュシャンにおける芸術とチェスとのどのような関連を示唆しているのか、つかめずにいた。つまり、芸術家と…

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