- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
久々湊盈子(くくみなとえいこ)の新歌集『世界黄昏(こうこん)』(砂子屋書房)を手にする。戦後七十年を同時代的に生きてきた歌人の偽りのない声が聞こえる。現実を踏まえながら、鋭い批評意識を底に秘め、だが、きっぱりと自らの思いを詩の言葉として述べている。<はるかなるものを呼ぶこえ現代という虚妄のなかに聴きすますなり>。「現代という虚妄」の措辞に、七十年を生きた歌人の感慨がある。<石巻へかの大いなる喪失へ続くレールの上の朝霜>との歌も。
石巻へ続くレールは、「大いなる喪失へのレール」だと歌人はいう。大戦末期に上海で生まれ、両親の故郷の長崎に引き揚げた。すでに両親は他の幼子を失っていた。その後、歌人が抱えた喪失の記憶が、東日本大震災や、いま現在の世界の状況の中でよみがえる。<どのような成り行きにてもわたくしは兵士の母と呼ばれたくない>、<濁声(だみごえ)に大鴉は鳴けり唱和して二羽また三羽 世界黄昏>。大声にすぐ「唱和」する危うさを…
この記事は有料記事です。
残り169文字(全文586文字)