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布施広の地球議

布施広専門編集委員が国際政治の真相に迫ります。

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「国なき民」の悲哀

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 早春とはいえ極寒の山麓(さんろく)に降るあられが視界を白く塗りつぶした。冷たいつぶてに打たれて立ち尽くす。原稿が書けない。現実を表現できない。目の前の巨大な不条理を生んだ「国際秩序」への疑問がこみ上げてくる。

 私はイラクとトルコの国境地帯にいた。1991年4月。トルコ側の山腹を埋めた数十万人のクルド難民は、新聞紙などで囲った名ばかりのテントの中で震え、雑草を口に入れて雪解け水を飲んだ。飢えと寒さ、下痢などで体力を失って次々に死んでいった。

 食糧を求め、ひそかにトルコの山里へ下りようとする人は、見張りのトルコ兵が容赦なく狙撃した。病気の赤ん坊を医者に見せたいと懇願する母親にも兵士は木の枝を振り上げた。母親のうつろな顔と号泣が忘れられない。

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